第二十話 人怪その三
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「そんなこと言ったら牧村君が困るじゃない」
「困るって何がだよ。実際に付き合ってるんだろ?」
「それは別に」
「付き合ってもらうからにはあれだよ」
牧村に顔を戻しての言葉であった。
「永久就職してもらうからね。いいね」
「永久就職というと?」
「決まってるじゃないか。この店を継いでもらうんだよ」
こういう意味での永久就職であった。つまり若奈と結婚してこの店の次のマスターになれということであった。入り婿とも言っていい。
「わかってるね、それは」
「俺がか」
「見たところ君は接客には向いていない」
マスターもまた牧村のその非常に無愛想なのはわかっているのだった。
「それも全くな」
「自覚はしている」
若奈も入れたそのコーヒーを飲みながらの言葉であった。
「それはな」
「自覚しているんなら話は早い。そして君はだ」
牧村に対してさらに言うのであった。
「コーヒーやスイーツを淹れたり作ったりするのには向いているな」
「そっちへの自覚はない」
今度はこう答えるのであった。
「淹れたり作ったりするのは好きだがな」
「いやいや、私にはわかるんだよこれが」
「お父さんってそんなに人を見る目があったの?」
「だからお母さんと結婚したんだ」
また随分と強引な主張であった。しかも自分を中心に置いた。
「違うか?」
「まあそう言えるけれど」
そう言われると若奈としては納得するしかなかった。何しろその両親の間に生まれたのが他ならない自分自身だからである。それも当然であった。
「それはね」
「その私が言うんだ。君は立派なコーヒー淹れ、お菓子職人になる」
「そうか。俺はなれるか」
「絶対になれる。君なら大丈夫だ」
太鼓判さえ押してみせるのだった。
「絶対にな」
「それで俺にこの店を継げというのか」
「私にいるのは絶世の美少女三人だけ」
「またお父さんたらそんなこと言うんだから」
またしてもその父の横で顔を真っ赤にさせる若奈であった。この父親の親馬鹿も相当なものであった。それをここでも出すのであった。
「大体私もう二十歳よ。それで美少女っていうのも」
「今でも芸能事務所からスカウトが来ないか心配だ」
親馬鹿はまだ続くのであった。
「これだけ可愛いと。三人共」
「そうだな」
牧村もわかっているのかマスターのその言葉に頷いた。
「何時スカウトが来てもおかしくはない」
「よし、それがわかっていると合格だ」
今度は牧村に太鼓判を押した。
「これで浮気をしないとなれば完全に合格だ」
「合格か。俺は」
「そうだ。どうやら私の後継者が決まったようだな」
「ずっと探してたの?ひょっとして」
「当たり前だろう?娘婿を探すのは親の務めだ」
こんなことも言うのであった。それに
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