第十九話 人狼その十八
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「おそらく自分でわかることはない」
「自覚していないということだな」
「自分が何をやったのか全く自覚できない」
まさに博士の言う通りであった。この老人はそうして一生を生きてきた。ある意味において非常に幸せな人生であるが他の者にとっては迷惑なことである。
「そのせいで罪を犯したとしてもだ」
「そしてどの地獄に行くのだ?」
「最も深い地獄だ」
そこに行くというのである。
「そうして未来永劫出ることはない」
「それだけ重い罪だというのだな」
「その通りだ。自覚せずに人の信頼を裏切り続け破廉恥な行動により実害を撒き散らし他の者に多大な迷惑をかけ続けその責任を自覚することもなかった」
それが罪だというのである。
「その罪を償わせるのだ」
「償えればいいがな」
「わかる筈もない」
その虚ろな老人を一瞥しての言葉であった。
「しかしだ。それでもだ」
「罪は罪か」
「うむ。その定めに従って私はこの魂を地獄に送る」
彼は言うのであった。
「ではな。また会おう」
「それではな」
こうして今回はすぐに別れたのであった。それから彼は喫茶店で若奈の淹れた紅茶とクレープを食べそれからまたサイドカーに乗った。サイドカーに乗り暫くするとだった。不意に目の前にあの紳士が浮かんでいたのであった。
空を浮かぶ彼はあの端整な服を着ていた。そうしてマントを風にたなびかせそのうえで牧村を見下ろしていた。そうしてそのうえで告げるのだった。
「来てもらいたい場所がある」
「何処だ?」
「こちらだ」
一瞥しその姿を変えた。それは巨大な漆黒の蝙蝠だった。
その紳士が姿を変えた蝙蝠に従い道を進む。そこはハイウェイであり夕刻のその世界には今は道行く車もなく彼等だけであった。道の左右にはもう照明が白い光を見せていた。その光の中で牧村はサイドカーを止めた。ヘルメットを脱ぎそのうえで。あらためて紳士を見上げそのうえで問うのであった。
「ここだな」
「そうだ。ここだ」
こう彼に語るのだった。
「ここで闘う」
「わかった。それではだ」
「私が闘うべきなのだがな」
言いながらゆっくりと降り立ってきた。そうしてそのうえで牧村と対峙するのだった。
「しかしな。それはな」
「俺の力がまだ足りないというのだな」
「その通りだ」
やはりであった。紳士はこう彼に告げるのだった。
「今の貴様では私には及ばぬ」
「そうか」
「しかし貴様の相手は用意してある」
そのうえでこう言うのであった。
「既にな」
「では今度の俺の相手は誰だ」
「この者だ」
顔を右にやった。するとそこにもう相手がいた。
それはアメーバに似た身体をしていた。赤と白のまるで肉がそのまま出て来たようなまだら模様をしている。目は一つでその下には巨大
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