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その男ゼロ ~my hometown is Roanapur~
#11 "Labyrinth of thought"
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た顔をしてたよ。ここに連れて来たのは正解だったな。
アンタも今じゃすっかりご立派な聖職者だな。それとも"昔の経験"が生きたか? 若い奴からのお悩み相談なんて何度も 受けてたんだろう? 男からも女からもな」
背中を向けたまま話し掛けてくるゼロに思わず笑いが零れる。
ふん、意固地なところも相変わらずだね。アタシも背中から視線を外し、 まだ見える方の目を閉じて話し始める。
「確かにねえ。経験なんて無駄にはならないものさ。例えどんな出来事だってね。
あの坊やがどういう答えをだすのかは知らないけれどさ。この街でアンタ達と出会った事も、決して無駄にはならないよ。あの子が忘れようとしない限りね。
人と人との出会いは全て神の思し召しだよ。ただそこからどういう関係を築くかは、 自分達次第さ。
何もかも忘れて、全てを捨ててしまうのか。どんな辛い出来事でも、自分には到底理解出来ないような考えでも、きちーんと自分の心に受け止めるのか。
どうするかは自分自身で決めるしかないんだ。
神は慈悲深いんだよ。人に選択する自由を与えてくださったんだ。結局自分の歩く道は自分で選ぶしかないんだ。
そして、その責任は自分で負うんだよ。誰かのせいにしちゃいけない。
人は運命の奴隷なんかじゃない。人が生きるって事はね、前向いて胸張って背筋伸ばして 歩いていくって事だよ。こんなクソッタレな街でもね」
ふう、一気に喋り過ぎたかね。さすがに喉が渇いた。
右手で軽く喉を押さえる。ロック坊やの時は専ら聞き役だったからね。全く年寄りばかりに喋らせるもんじゃないよ。
目を開けてさっきと同じ方向に目を遣ると、まだ同じ体勢で突っ立ってるじゃないか。やれやれ、アンタにもあの坊やの半分でいいから可愛げってもんが欲しいよ。
アタシの呆れが混じった視線を肌で感じ取ったか、漸く重い口を開き始めた。もっとも話の内容は全く可愛げのないものだったけどね。
「ここに来る前に『ブーゲンビリア貿易』に寄って来たんだがな。
バラライカが気にしてたぞ。最近街に協定外の
麻薬
(
ヤク
)
が出回ってると。
今夜連絡会の会合で話し合うそうだ。アンタが自滅するのは勝手だが、善良なNGOの関係者を巻き込むなよ。
大体クリーニング済みのシーツをわざわざ納屋に運び込ませるなんて、怪し過ぎないか? 噂なんて何処から拡がるか判らないぜ。いくらマフィアどもにとって、くそ真面目な宗教関係者が盲点だとしても、気付くやつは気付くんじゃないか?」
アタシはその言葉に構うことなくティーポッドに手を伸ばして、紅茶のお代わりを自分のカップに注ぐ。ポッドから流れ出る熱い液体は変わらず美しい。
本物は何処へ行っても本物さね。例え、この街がどれ程汚れていってもこの紅茶は今と変わらず美しく、そして美味しいままなんだろう
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