第十八話 力天その六
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「その二つでね。いいわよね」
「いい。それじゃあこの素振りを終わってからな」
「最後までするの?結局」
「今日はこれで終わりだ」
その言葉の間も素振りを続けるのだった。
「トレーニングはな」
「後はシャワーを浴びてゆっくりなのね」
「そういうことだ。ケーキはそれからだ」
そこまでしてからというのだった。
「シャワーを浴びてからな」
「その間に私がまた一個食べるかもよ」
「そうすれば太るぞ」
悪戯っぽく笑って言ってきた妹に今度は顔を向けずそのまま真顔で返すのだった。
「太りたいのか?それならいいが」
「あのね、その言い方ないんじゃないの?」
流石に今の兄の言葉には顔を顰めさせるのだった。
「太るって。女の子には禁句でしょ」
「禁句か」
「そうよ。太るとかブスとかそういうのは禁句よ」
このことを尖った言葉で言ってきた。
「何があっても絶対にね」
「チビとか胸が小さいとかだといいのだな」
「それは別にいいわ」
何故かそれはいいとするのだがやはりこれにも彼女なりに理由はあった。
「それはね」
「何故これはいいのだ?」
「だってどっちも好きだって人がいるから」
だからだというのである。
「背が低い娘が好きっていう人もね」
「それに胸もか」
「そうよ。胸もね」
その胸もなのだった。
「胸が小さいのがいいって人もいるじゃない。だからいいのよ」
「太るのもそうだと思うがな」
牧村はここではあえてブスという言葉を言わなかった。
「太っている娘がいいという奴もいる」
「私太りたくないから」
あくまで自分の考えではある。
「絶対にね」
「だから嫌か」
「そうよ。だからその言葉取り消してよ」
「ならケーキは置いておけ」
見事な駆け引きであった。
「わかったな。そういうことだ」
「わかったわよ」
そして未久も憮然としながらであるが頷くのだった。
「それじゃあよ。ケーキ二つ共置いておくわね」
「そうしてくれ」
「あと紅茶もあるけれど」
「それももらおう」
「じゃあ淹れておくわね」
「もう淹れているものはカップに移しておいてだ」
しかしここで独特のこだわりを見せるのだった。
「後は自分で淹れる」
「そうするの」
「自分で淹れるのもまたいい」
こう言うのだった。
「もっともあの店のマスターが淹れたのもいいがな」
「それと若奈さんの淹れたのもでしょ」
未久はここで笑って言ってきた。
「そうでしょ?違うかしら」
「その名前は出すな」
素振りは続けているが動きに少し無駄なものが入った。
「いいな」
「何よ、焦ってるの?」
「焦ってはいない」
表情にも出さないがやはり言葉にはそれが微かに見られた。
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