第十八話 力天その五
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「けれど。意味があるの?何か」
「俺にとってはな」
やはり言葉はここでも素っ気無いものではある。
「ある。充分にな」
「意味があるのね」
今度は首を左に捻りながら述べた。
「ちゃんと。お兄ちゃんにとっては」
「そうだ。右だけでは勝てないかも知れない」
「試合に?」
「そんなところだ。右だけではない」
また言うのだった。
「両方使えてこそだ。それでやっと勝てる相手もいる」
「確かテニスもフェシングも使う手は一本だけだったと思うけれど」
兄の髑髏天使としての顔を知らないからこその言葉だった。だからこそ今も試合のことだと考えたのである。それが違うとは夢にも思わずにだ。
「それでも左もって」
「今までは左手は護るだけだった」
牧村の言葉は髑髏天使としての言葉だ。当然ながら未久にはわからないものである。
「しかし。右手でも護り左手でも攻めることができればだ」
「何か意味わからないんだけれど」
「俺にはわかる」
ここでもこんな調子である。夜の庭で家の中からの灯りに照らされその汗が輝いて見える。顔だけでなく腕からも全身からも汗をほとぼしらせている。
「俺にはな」
「とりあえず話していって言っても話してくれなさそうね」
兄の性格はわかっているのだった。
「何かもう」
「悪いがその通りだ」
そしてその言葉にこう返すのが牧村であった。髑髏天使のことだから当然だがそれでもあえてこう答えてみせるところがである。
「言うつもりはない」
「だったらいいわ、それで」
兄の性格をわかったうえでの返事だった。
「わかってるし、お兄ちゃんの性格」
「ならいいがな」
「それはわかったけれど」
それはまだいいとするのだった。
「けれどよ。それでもよ」
「何だ?」
「少し休んだら?」
こう兄に言ってきたのだった。
「もう。フェシングの素振り千回したのよね」
「そうだ」
「だったら一度休んだら?」
またこう勧めてきた。
「ケーキあるけれど」
「そのケーキか」
「ううん、チーズケーキ」
未久が今食べているのは苺ケーキだ。白いホイップで付けられたクリームとその赤い苺がケーキの外と中にある。中にあるスライスされた苺の赤もまた映えている。
「それ。残ってるわよ」
「チョコレートケーキもなかったか?」
「さっき私が食べたわよ」
なお今彼女が食べているのは苺ケーキである。
「残念だけれど」
「おい、二つ食べたのか?」
テニスの素振りをして左右に激しく動きながらも妹に顔を向けて問うた。
「二つ共か」
「チーズケーキだけじゃなくてモンブランもあるわよ」
それも話に出すのだった。
「それもね。それでいいでしょ?」
「チーズケーキにモンブランか」
「別に嫌いじゃないわよね
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