第十八話 力天その四
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「黄金酒でもね」
「それはいいな」
今度は興味を見せる死神だった。
「では帰ったら二人で飲むか」
「待ってるよ。それと御馳走も用意しておくから」
「私も人間の食べ物を持って来ようか」
「そうだね。人間もあれで舌が肥えてるからね」
そういうことは知っているらしい。言葉の色にも出ている。
「面白いね。じゃあそれでね」
「楽しみにしているのだな」
「うん、人間に興味はないけれど食べ物にはね」
あるというのだった。
「あるよ。じゃあそれ頼むよ」
「わかった。楽しみにしていろ」
「そうさせてもらうよ。それじゃあね」
死神は虚空の暗闇を後にした。そのうえで人の世界に戻った。その頃牧村はまた妹と共に家にいた。庭に出てフェシングの素振りをしていた。
「相変わらず精が出るわね」
「そうか」
未久の言葉にも素っ気無く返すだけで一心不乱に素振りを続けている。
「そういうふうに見えるか」
「見えるわよ。もう顔中汗だらけじゃない」
妹は窓のところに立ってそこから兄を見ながら言う。今彼女はその左手にケーキが乗った皿を持ち右手のフォークで口の中に入れていた。そのうえで兄に対して言っていた。
「物凄く。千回は振ってるわよね」
「そうだな」
今も振りながら言うのだった。
「ではあと千回か」
「二千回ねえ。よくそんなに振るわね」
「フェシングの素振りはこれで終わりだ」
しかし彼はここでその手に持っているサーベルは置くのだった。
「それはな」
「じゃあ後はどうするのって・・・・・・決まってるのね」
「そうだ、これだ」
すぐ側の壁のところに置いていたそのテニスのラケットを取るのだった。それを左手に持って早速振りはじめるのだった。身体を左右に動かしながら。
「こうしてな」
「そうね。あれっ!?」
ここで未久はあることに気付いた。兄のその素振りを見て。
「確かお兄ちゃん右利きだったわよね」
「そうだ」
彼もそれを認める。
「それは知っているな」
「まあね。生まれた時からずっと一緒にいるんだし」
未久も頷く。彼女にしろ兄の利き腕のことはとっくに知っていた。兄妹ならばこうしたことは知っていて当然であった。むしろ知らない方がおかしな話である。
「知っていたわよ」
「そうだな。知っていてね」
「じゃあ何でなのよ」
ここで妹の言葉が顰められた。
「何で今左手で振ってるの。そういえばさっきのサーベルだって」
その話もするのだった。
「左手で振ってたじゃない」
「そうだ」
「何でなの?右手怪我したとか?」
「怪我はしていない」
そうではないというのだ。
「怪我はな。してはいない」
「じゃあ何で左手で振るのよ」
「右だけでは不充分だ」
こう妹に対して告げながらその左手で振
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