第十七話 棺桶その十五
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「六番目の魔神、俺の前にな」
「その声か」
不意にその棺から声がしてきた。
「この時代の髑髏天使の声。それがか」
「俺は確かに髑髏天使だ」
牧村はこう彼に答えた。
「それがどうした」
「確かめただけだ。それならばだ」
「やるというのだな」
「如何にも」
牧村はまたその声に答えた。
「それが髑髏天使だ。貴様等を倒すな」
「では来い」
彼等はその話を聞きながら述べた。
「闘いを行うならな」
「それではだ」
そうして遂に棺が開いた。そこから端整な顔をしていて黒い髪を丁寧に後ろに撫で付けたタキシードの男が出て来た。漆黒のマントに身を包んでいる。
「吸血鬼か」
「すぐわかったようだな」
「口元を見ればすぐにわかる」
牧村は棺から起き上がり顔を見せる彼のその口元を見て述べた。
「その牙の生えた口元を見ればな」
「そして目をか」
「その通りだ。牙のある口元に赤い目だ」
まさにそれだった。その紳士の目は赤くそして口元には狼のものを思わせる鋭い牙がある。顔は白くまるで死者のものであった。
「それでわかる」
「如何にも私はヴァンパイア」
完全に棺から出て来て二人の前にその全身を現わしてきた。
「十二魔神の一人。ルーマニアから来た」
「東欧か」
死神はその国の名前を聞いてすぐに述べた。
「そこから来たのだな」
「如何にも。とはいっても私はあの公爵とは違う」
こう断りはしてきた。
「彼は人間だが私は魔神。生粋のな」
「ヴァンパイアは死者がなるものとは限らない」
死神は彼の今の言葉を聞いて述べた。
「そういうことか」
「その通りだ。私は死んだことはない」
彼は言うのだった。
「最初からヴァンパイアだったのだ」
「つまりは生粋のヴァンパイアということか」
牧村は彼の今の言葉をこう言い替えたのだった。
「貴様は。魔神だというのだな」
「如何にも。私は神だ」
紳士はこうも彼に告げてきた。
「魔物達のな。神は人ではないのだ」
「確かにな。神は人ではない」
牧村もそれは認めた。
「しかしだ。一つ言えることがある」
「それは何だ?」
「神といえども倒れることはある」
既にその目に激しい闘志を宿していた。静かだが激しく燃えている。そうした闘志を今己の目に宿らせそのうえで今にも紳士に向かわんとしていた。
「そして人は神を倒せる存在だ」
「神が人を倒すというのか」
「その通りだ」
言いながら今にも変身しようとしていた。
「では。いいな」
「残念だが今の貴様では私の相手にはならない」
だがここでは彼は牧村を相手にしようとはしないのだった。
「能天使では私の相手をするのには不充分だ」
「ではどうするのだ?」
「既に貴様の相手は用意してある」
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