第十六話 青年その十五
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「苺とバニラがあるけれど苺食べて」
「何で苺なんだ、俺は」
「それはもう苺しかないからよ」
にこにこと笑って兄に話すのだった。
「今さっき食べたから、私が」
「だから苺しかないのか」
「美味しかったよ」
ここでまたにこにこと話す若奈だった。
「バニラ。だからお兄ちゃんも食べなよ」
「バニラが好きなんだがな、俺は」
妹の調子のいい言葉に対してむっとしたような声で返した。
「苺は。少しな」
「嫌いだったっけ」
「いや、嫌いじゃない」
実はそうなのだった。
「別にな。苺の甘さも好きだしな」
「そうそう、それ私もわかってたから」
若奈はここでまた調子のいいことを言いだしてきた。
「だから残しておいたの。感謝してね」
「それは嘘だな」
妹の今の言葉にはこれまたむっとしたような声で応えるのだった。
「そうだな。実際は御前はバニラが食べたかったから食べた」
「そう思ってるの?」
「思ってるんじゃない。確信だ」
こうまで言う兄だった。
「そうだな。バニラを食べたかったんだな」
「そういう見方もあるわね」
いい加減ばれているがそれでもまだ白を切るのだった。目線は左斜め上にある。
「ひょっとしたらだけれど」
「まだ言うか。まあいい」
牧村もこれで話を打ち切ることにしたのだった。靴を脱いでそのうえで家にあがるのだった。そのうえで妹の横を通り過ぎながらまた言った。
「その苺だが」
「食べてね」
「言われるまでもない」
これが返事だった。
「今から食べる。その間に着替えておくんだな」
「わかってるわ。今日もおめかしして行くから」
「別にセーラー服でもいいんじゃないのか?」
ふとこんなふうにも思って妹の方を振り向いて述べた。
「そのままでもな」
「それがそうはいかないのよ」
しかしそれでも若奈は言うのだった。
「女子中学生っていうのはね」
「塾は塾でか」
「そういうこと。今日もちゃんとした格好でないと」
胸を張って両手を腰にやって笑顔で宣言するのだった。
「周りに負けちゃうから」
「ファッションでも勝負しているのか?」
怪訝な声で妹に問い返した。
「勉強だけでなく」
「勉強は普通にやってればいいじゃない」
若奈の成績はそれ程悪くはない。むしろいい方である。このままいけば八条学園高等部にも平気でいけると言われている。八条学園はレベルは高いが入りにくくはないレベルでもある。つまり若奈の成績もそうした状況であるのだ。そういうレベルなのである。
「そうでしょ?けれどファッションはそうはいかないのよ」
「そういうものなのか」
「それは女の子の世界の話」
こんなことも言う若奈だった。
「男の世界じゃないけれどね」
「何か別世界みたいだな」
「完全に
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ