第十六話 青年その十
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「死体か」
「グールだ」
青年は牧村に顔を向けたまま述べた。
「それがあの魔物の名だ。知っているか」
「確か生きる死体だったな」
牧村は魔物に顔を向けつつ青年に言葉を返した。
「何かの本で読んだ」
「そうだ。あれは生きる死体だ」
青年もこう彼に答える。
「それが貴様の今回の相手だ」
「面白い相手だ」
自分の方に向かって歩いてくるそのグールを見ながらの言葉だった。
「生きる死体というのもな」
「随分と余裕があるな」
「余裕があるように見えるか」
「少なくとも焦ってはいないな」
青年は牧村のその姿を見て冷静に告げるのだった。
「そして怯えてもいないな」
「髑髏天使だ」
牧村はここでも髑髏天使だと言うのだ。
「焦りも怯えもない」
「いい言葉だ。その言葉を聞いて安心した」
青年は今の彼の言葉に口元に笑みを浮かべさせた。明らかに楽しむ笑みであった。
「では。その闘い見せてもらおう」
言いながら数歩退いた。足を動かさずそのままの姿勢で影の如く後ろに退いたのだ。
「貴様のそれをな」
「見せるつもりはないが見ておけ」
牧村は言いながら両手をゆっくりと動かす。そうしてその両手を拳にしてそのうえで胸の前で打ち合わせる。すると拳から白い光が放たれその光の中で髑髏天使となるのだった。
右手を少し前に出し一旦開いたそれを握り締める。そうしてそのうえで言うのだった。
「行くぞ」
「いい気だ」
青年は離れた場所で今姿を現わした髑髏天使を見つつ述べた。
「それでは。その闘い見せてもらおう」
「バジリスク様の御言葉だ」
グールがここで言葉を出してきた。左肩をだらりと落とし頭もそれに合わせている。全体的にけだるい、そんな格好になっていた。
「闘わせてもらうぞ」
「倒す」
髑髏天使の彼への言葉はまずはこれだった。
「バジリスク様の御前でな」
「その言葉、そのまま返してやろう」
言いながらその剣を構える髑髏天使だった。今は天使のままであった。
「貴様をここで倒す。いいな」
「噂通り自信家のようだな」
グールはその力のこもっていない、しかし屍とは思えない素早さで動いてきた。
「どうやらな」
「自信はある」
そして髑髏天使もそれを隠さなかった。
「少なくとも貴様を倒すだけの自信はな」
「いい言葉だ。やはり髑髏天使だけはある」
言いながら変わった。翼を生やしそのうえで両手に剣を出し色を変えた。それは能天使だった。
「では。行くぞ」
「参ろう。ではバジリスク様」
「うむ」
バジリスクもまたグールの言葉を聞いて頷くのだった。
「では見せてもらおう、貴様の闘いをな」
「有り難うございます。ではそちらで」
こうして青年が見るその前で闘いをはじめる両者だった。
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