第十六話 青年その六
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「クレープだよ」
「クレープね」
「ああ。バナナとアイスクリームのクレープ」
注文についても伝えるのだった。
「それを一つね」
「わかったわ。じゃあ今から作るわね」
「ああ、頼むよ」
こう自分の妻に告げてから顔を牧村に戻す。そうしてまた彼に対して笑顔で言うのだった。
「それでうちのお菓子はね」
「ああ。何かあるのか?」
「最近未久にも仕込ませているんだ」
こう彼に対して語ってきた。
「最近ね」
「そうなのか。あの娘が」
「いい感じだよ、素質があるんだろうね」
またしても親馬鹿であった。これはどうしても離れなかった。
「本当にね。それでだよ」
「ああ」
「はい、クレープ」
ここでその注文したクレープが彼の前に出された。黄色い包みの上にチョコレートがかけられている。そして中の膨らみも確認されるのだった。
「どうぞ」
「早いな」
「安くて早くて美味い」
マスターはまた笑顔で彼に話した。
「それがうちの店のモットーだからね」
「そういえばそうか」
「そうだよ。だからほら」
食べるように勧めるマスターだった。
「今日のも最高に美味いよ」
「そうか。じゃあ楽しませてもらう」
「どうぞ」
こんな話をしながら食べる彼だった。それが終わってから店を後にする。店の前に停めてあったサイドカーに乗ろうとする。しかしここでまたあの男が目の前にいるのだった。
「貴様か」
「暫くぶりだな」
こう彼に声をかけてきたのだった。
「元気でいると思っていたがな」
「少なくとも美味い茶と菓子は楽しんだ」
今食べ終えたそのロシアンティーとクレープのことに他ならなかった。
「貴様もどうだ?」
「悪くはないな」
彼もそれはいいとするのだった。
「しかしだ。今はいい」
「いいのか」
「甘いものを食べるのは今はな。いい」
また言う彼だった。
「それよりもだ。私が何故ここに来たのかわかるか」
「おおよそ察しはつく」
サイドカーを挟んで向こう側にいる彼に対して言葉を返した。表情を変えずに。
「闘いか」
「少なくともその話題だ」
こう答える彼だった。やはり表情も変えずにだ。
「また魔神が日本に来た」
「またか」
「そう、まただ」
彼は言うのだった。
「魔神がな。また来た」
「そうか。またか」
「やはり貴様が呼び寄せているようだな」
また言う彼だった。
「貴様のその髑髏天使としての力の増大がな」
「俺が魔神達を呼び寄せているか」
「私はそう考えるようになってきている」
フードの向こうから彼を見つつ告げた言葉だった。
「どうやら貴様のその強くなっていく力がだ。そうさせているのだ」
「俺の力が強いのならだ」
そのフードの彼にまた言い返すのだった。
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