第十六話 青年その五
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「俺は世界一の幸せ者だ」
「言うねえ、その通りだよ」
「あれだけの可愛い娘が側にいてくれてな」
「ただ可愛いだけじゃないしねえ」
マスターの親故ののろけはさらに続くのだった。
「性格もねえ。最高にいいしね」
「性格美人でもあるな」
「性格は顔にも出るんだよ」
よく言われていてしかもその通りの言葉であった。
「顔にもね。出て来るんだよ」
「そうだな。生き方にしろ性格にしろ顔にも出る」
牧村はまた言った。
「あの娘もそうだな」
「いやいや、そこまでわかっていてくれたら安心だよ」
最早破顔になっているマスターであった。その顔でさらに言うのだった。
「もうね。わしも店の後継者が見つかって何よりだよ」
「後継者?」
「ああ、まだ気にしなくていいよ」
マスターは今の牧村の言葉にはさりげなくはぐらかした。
「それはね。少なくとも君の卒業後の就職先は決定だ」
「俺の就職先か」
「そうだよ。それも生涯就職だ」
こんなことまで言うのだった。
「もうね。任せていいからね」
「任せる。生涯就職を」
「無愛想だけれどまあそれはいいか」
牧村をよそに話を進めているマスターだった。
「うちの未久のあの天使の笑顔があればね」
「天使の笑顔なのは同意だが」
それはなのだった。
「しかしだ。何か話はわからないが」
「ああ、こっちの話だから」
ここではこんなことを言うマスターだった。
「気にしないでいいよ」
「気にしないでいい?」
「うん、今はね」
また言うマスターだった。やはり牧村を置き去りにしつつ牧村のことを話すのだった。牧村にはそれが何なのかわからないがそれでも話をするのだった。一人で。
「それでいいから」
「就職は考えたことがなかったな」
「コーヒー淹れるの得意かな」
今度はこんなことを尋ねてきたマスターだった。
「それはどうかな」
「紅茶もコーヒーもいつも家で淹れている」
素直に答えた牧村だった。
「それはな」
「そうかい、じゃあ通だね」
「少なくとも五月蝿いつもりだ」
こうそのロシアンティーを飲みながら述べた。
「紅茶にもコーヒーにもな」
「それは何よりだよ。じゃあ合格だな」
「合格?」
「ああ、これもこっちの話だから」
また話をはぐらかすマスターだった。やはり何かを隠している感じだ。牧村もそれはわかるが何を隠しているのかまではわからなかった。
「それよりもだよ」
「ああ。今度は何だ」
「お菓子は何がいいかな」
今尋ねてきたのはお菓子に関してだった」
「所謂スイーツだけれどそれは何がいいかな」
「そうだな。クレープがいいか」
「よし、じゃあクレープだね」
「バナナとアイスクリームのな」
それだというのである。
「それがいいが」
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