第十五話 子供その十三
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「二匹の魔物を。ああも見事に倒すとはな」
「どちらも手強い相手だった」
闘った者しかわからない言葉だった。
「だが俺は勝ちそして能天使になった」
「水の中では能天使になったからこそ勝つことができたな」
「その通りだ。運がよかったと言うべきか」
「運もあるがそれ以上に必然があった」
死神は運よりもそれを言うのだった。必然をだ。
「貴様が勝ったことにはな」
「必然か」
「そうだ。貴様は確かにそれなりの闘いを経てきた」
次に言うのはこのことだった。
「しかしだ。それ以上にだ」
「それ以上に?」
「どうやら貴様には恐ろしいまでの素養がある」
彼に今度告げたのはこのことだった。
「闘いに関してのな」
「闘いに関してのか」
「これは聞いたかも知れないがここまでで能天使になった者はいない」
奇しくも博士と同じ指摘であった。
「貴様以外にはな。いないのだ」
「そのようだな」
そして彼もそれを知っているという言葉を述べたのだった。
「どうやらな」
「その通りだ。貴様の強さの上がり方は尋常ではない」
「ではどうするというのだ?」
問う牧村の言葉が鋭いものになった。
「闘うつもりか?また」
「いや」
死神はそれは否定するのだった。
「前にも言ったが。そのつもりはない」
「そうか」
「私が刈るのはあくまで決められた者だけだ」
死神としての存在意義そのものの言葉だった。
「あくまでな。貴様はそうではない」
「では邪魔にならなければか」
「そうだ。何もしない」
このことを確かに言う死神だった。
「だからだ。安心しろ」
「わかった」
そして牧村も死神のその言葉を受け頷くのだった。
「それではな」
「ただしだ」
だがここで死神はふと声の色を変えてきた。
「闘いはある」
「闘いはだと?」
「耳を澄ませるのだ」
彼が次に言ってきた言葉はこれであった。
「耳をな。聞こえるか」
「聞こえる?何をだ」
「風だ」
こう牧村に言うのである。
「風が教えてくれている」
「風がか」
「御前にも聞こえてきている筈だ」
そのうえで今度はこう牧村に言ってきたのだった。
「御前にもな。違うか」
「俺にも!?」
牧村は今の彼の言葉を聞いてヘルメットの奥で顔を顰めさせた。
「まさか。いや」
「聞こえてきたな」
牧村の今の言葉でわかった死神だった。
「御前にも」
「前からか」
ヘルメットの中で呟いていた。
今確かに牧村の耳にそれが聞こえていたのだった。その無数の声を。風に乗って来るその声を聞いたのだった。今前から来るそれを。
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