第十五話 子供その三
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「中々見つからんものなのじゃよ」
「欲しいものは欲しい時にこそない」
牧村はふとこう呟いた。
「全てがそうだな」
「まあそうじゃな。いざという時にはないものじゃ」
博士も今の牧村の言葉に頷く。
「世の中というものはな。難儀なものじゃ」
「全くだ」
二人でこのことを話していた。話しているうちにまた周りの妖怪達がやって来て博士には酒を、牧村には茶と菓子を差し出してきたのだった。
「まあまあ。辛気臭い話はこれ位にしてね」
「食べて食べて」
「飲んでよ」
「これは」
牧村は雨ふり小僧が差し出してきたその菓子を見て言った。
「豆腐ではないな」
雨ふり小僧はいつも豆腐を持っている。これを人に差し出して食べさせるのだがその豆腐を食べると身体中カビだらけになってしまう。そうした悪戯を楽しむ妖怪なのだ。
「シュークリームか」
「僕だって豆腐ばかり食べてるわけじゃないからね」
雨ふり小僧は笑って彼に答えた。
「だからね。どうぞ」
「食べても身体にカビは生えないな」
「それは豆腐だけだから」
また笑って彼に話してきた。
「安心してよ。ほら、食べて食べて」
「ああ、わかった」
シュークリームは何個もあった。それが欧風の皿の上に置かれている。茶は紅茶だ。彼はまずシュークリームのうちの一個を手に取ってそれを口の中に入れた。薄皮の香ばしさのすぐ下にクリームの甘さがあった。その二つを同時に味わい言うのだった。
「美味いな」
「そうでしょ?スタープラチナの残りものだけれどね」
「あのカラオケ屋のか」
駅前にあるカラオケ店である。他には居酒屋やゲームセンターも同じビルにある。中々繁盛している店で菓子が美味いことでも評判だ。
「あの店のものか」
「残りものをバイトの人達にいつものように渡そうとしていたんだ。その中のを幾つかこっそりとね」
「くすねたのか」
「くすねたなんて人聞きが悪いよ」
それは笑って否定するのだった。
「ただね」
「ただ?」
「断りなく頂いただけだよ」
また笑ってこう話した。
「ただそれだけだよ。それだけ」
「それがくすねたというのだがな」
牧村は目を少し鋭くさせて雨ふり小僧に告げた。
「人間の世界ではな」
「誰も気付かなかったし別にいいじゃない」
しかし雨ふり小僧はまだこんなことを言って全く気にはしていなかった。
「それならそれで」
「それが妖怪の世界か」
「そうだよ。人が困らないように人から拝借する」
本当に何でもないような言葉であった。
「それが妖怪だから」
「だからいいのか」
「うん、それが僕達の常識」
こうも言うのだった。
「だから全然気にしないよ」
「どうやら言っても話が交わらないな。ならいい」
どのみち残りものでしかも誰
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ