第十四話 能天その十二
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「今回はな」
「それは一体どういう風の吹き回しだ?」
「事故が起こった」
彼は言うのだった。
「そちらに行かなければならない。大きな事故だ」
「事故!?」
「何度も言うが私は死神だ」
死神はここでも己のことを語った。
「死んだ魂を冥府に送るのが仕事だ」
「それで行くのか」
「そうだ。死んだ者が多く出た」
こう語るのだった。
「だからだ。その魂を全て冥府に送り届けに行くのだ」
「魔物の魂を刈るだけではなかったのだな」
牧村は少し皮肉に彼に対して言った。
「それだけではないのだな」
「生憎私の仕事は多い」
死神はその少しばかりの皮肉を受け流しながら言葉を返した。
「それだけではないのだ」
「そうか」
「今回は貴様が全てやるといい」
ここまで話したうえでこう告げたのだった。
「私は何もしない。それではな」
「今から行くのか」
「既に死者の香りがする」
香りと表現する。そこには死神独自のものがあった。
「それでな。今から行かせてもらう」
「わかった。では行くといい」
牧村に止める理由はなかったし実際に彼も止めはしなかった。実にドライに彼に対して言葉を返した。本当にそれだけであった。
「また機会があればな」
「会おうというのだな」
「どちらにしろまた近いうちに会うことになるな」
「おそらくな」
双方共それは感じ取っているのだった。
「その時にな。また会おう」
「わかった。それではだ」
死神はコートから去ろうとする。牧村に背を向ける。そしてそのうえで背中越しに彼に対して言ってきた。
「それでだ」
「今度は何だ?」
「貴様、香りが変わったな」
こう言うのだった。
「私が最初に貴様に会った時とな」
「香りが変わった?」
「そうだ」
また告げてきた。
「といっても死の香りではないがな」
「俺はまだ死なないのか」
「それもある」
これもだというのだった。
「しかしだ。それとはまた別の香りだ」
「それは一体何だ?」
「それはすぐにわかることだ」
今ここでは語ろうとはしないのだった。
「貴様がな。それではな」
「行くのだな、その事故の現場に」
「さて。どれだけいるか」
表情を見せない言葉だった。
「それはわからないがな。今から言って来る」
「そうか。ではまたな」
「うむ。また会おう」
こう言葉を交えさせたうえで姿を消す死神だった。牧村も練習をこれで終えてサイドカーでその街の離れた山のところにあるダムに向かった。その門の白いコンクリートのところに進むと目の前に一人の男がいた。それは白髪の背の高い老人であった。彼が門の上の部分にあたる通り道に立っているのだった。
牧村から見て左手にダムの水がたたえられており右手から水が出ていた。
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