第十三話 衝突その六
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「どちらがより深いかという問題ではないがな」
「コーヒーと紅茶に優劣はないんですね」
「赤ワインと白ワインを同時に愛することができるのが人間だ」
酒は飲まない彼だがあえてワインに例えてきた。
「そういうことだ。全てはな」
「だからですか」
「コーヒーは飲ませてもらった」
今それを飲み干したのだった。
「次に来る時は紅茶がいいな」
「紅茶をですか」
「セイロンティーかそれともシナモンティーか」
紅茶の種類を話に出してみせていく。
「どちらもいいがな」
「では今度はセイロンティーを」
ろく子は牧村の話を聞いて紅茶はそれにしようかと考えだした。
「しましょうか。博士、それでいいですか?」
「ああ、わしは構わんよ」
博士は自分の秘書でもある彼女に顔を向けて述べた。
「別にな。それでもな」
「わかりました。それでは」
「ブルーマウンテンはよかった」
牧村はまだその右手にコーヒーカップを持っている。それを持ちながら彼はふとした感じでまたろく子の自分の顔の前に来ている彼女の延びてきた顔を見つつ述べた。
「それでだ」
「はい」
「もう一杯もらえるか」
こう彼女に問うた。
「ブルーマウンテンをもう一杯。いいか」
「はい、どうぞ」
ろく子はにこりと笑って彼の問いに答えた。
「では。すぐに淹れますね」
「悪いな」
「凝ってるのはコーヒー豆だけじゃないんですよ」
首を引っ込めて人間の姿に戻ってそのうえで彼の方に歩いてきながら言ってきた。服はいつもと同じズボンのスーツである。
「お水にも気を使ってます」
「水もか」
「六甲の水です」
八条大学があるその神戸の水である。
「それを使ってます」
「水には気付かなかったな」
「気付かなくてもそこに気をやるのが通ですよね」
牧村の方にさらに歩み寄りながらの言葉だった。その手には赤と黒の盆がある。日本風の木の盆でよく見れば黒は漆のものであった。
「ですから」
「また徹底しているものだ」
「お砂糖やミルクにも気を使ってますよ」
話はそういったものにまで及んだ。
「そちらも」
「いいことだ。だが俺は今はミルクは欲しいが」
「はい」
「砂糖は止めておこう」
こう言うのだった。
「今はな」
「何故ですか?」
ろく子は彼の今の言葉を聞いて怪訝な目を見せた。
「ダイエットでもされていますか?私の使っている砂糖は天然のもので」
「いや。ただ気分の問題だ」
こう答えるのだった。
「それだけだ」
「それだけですか」
「砂糖が入っているコーヒーを飲みたい時もある」
決してそういったコーヒーが嫌いなのではなかった。
「今は」
「その気分ではないのですね」
「そう。それだけだ」
こう述べたのだった。
「
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