第十二話 大鎌その十一
[1/2]
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
「やはりな。それが大きい」
「私もやってるけれど」
彼女は学校では吹奏楽部に入っている。吹奏楽はただ演奏をするだけではない。それにあたって体力をつける為にランニングや筋力トレーニングも行うのだ。この辺りは厳しいのである。
「けれど。それでも」
「要は食べ過ぎないことだ」
牧村はまたしても素っ気無く告げた。
「甘いものばかりな。食べてもいいが」
「食べ過ぎないのね」
「さもなければ太る」
彼はまた言った。
「それだけだ。太ってもいいというのなら別だがな」
「嫌よ、そんなの」
太るという言葉には敏感な顔を見せる未久だった。
「太ったら嫌われるから」
「嫌われる?」
「そうよ、嫌われるわ」
未久はまだ自分が何を言っているのかわからなかった。この辺りは迂闊だった。
「だから困るわ。それはね」
「誰に嫌われるのだ?」
そしてそれを聞き逃す牧村ではなかった。その十六穀飯を鰯で食べながら妹に対して問うのだった。その鋭い目をじっと向けながら。
「それで」
「それでって決まってるじゃない」
やはり気付かない未久だった。
「健也君にね。嫌われるわ」
「そうか。健也というのか」
牧村は妹から名前まで聞いて納得した顔で頷いた。
「御前の彼氏は。そうか」
「えっ、何でわかったの!?」
未久はここでもまだ気付いていなかった。やはり迂闊である。
「私に彼氏がいるって。どうして?」
「今言った」
牧村はここでも素っ気無く告げた。
「今な。自分でな」
「あっ、しまった」
「俺にとっては別にどうでもいい」
だからといって口出しはしないのだった。妹が付き合う相手はとりあえずまともな人間ならそれでいい、こう考えているだけなのである。
「俺はな」
「お父さんやお母さんには内緒にしてね」
妹はその顔を乗り出して兄に対して言った。
「いい?そこは」
「俺は何も言わない」
やはり素っ気無い牧村だった。
「それについてはな」
「吹奏楽部とクラスで一緒なのよ」
未久はまた自分で言ったが今度は少し違っていた。
「それでね。一緒にいるうちに」
「それで付き合うようになったのか」
「言っておくけれどキスはまだよ」
どうにも焦っている感じも見られた。
「だから。別に」
「俺は何も聞いていないが」
「それでもよ」
必死に言うのだった。いささか弁明めいた調子で。
「何もないから。健也君も真面目だし」
「真面目ならそれでいい」
やはり何も言わない兄だった。
「それでな」
「そう。よかった」
「ただ」
安堵する妹だったが何とここでその彼女に言ってきた。
「ただ?」
「この十六穀飯だが」
彼が言うのは今食べているその飯についてであった。
「またしてくれるか」
[8]前話 [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ