第一話 刻限その二
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めている」
「そうなの?本当に」
「少なくとも俺はそのつもりだ」
「そうだったらいいけれどね」
「それでだ」
彼はまた話を変えてきた。
「教授は研究室におられるんだな」
「ええ、それは間違いないわ」
これについては確実な返事が返ってきたのであった。彼女も確信したような顔で言葉を出してきたのであった。
「さっきまで博士の研究室にいたし」
「そうか。それなら」
「ただしよ」
彼女の笑みくすりとしたものになった。
「相変わらずだから」
「相変わらずか」
「そう、相変わらず」
そのくすりとした笑みでまた語る彼女だった。
「机に向かってね。その取り寄せた本を読んでるわ」
「ウィーンからのだな」
「あれっ、ロンドンじゃなかったかしら」
ここで話が少し混乱した。
「違った?」
「ウィーンじゃなかったか。まあいい」
彼はそれについてはどうでもいいことだったのだ。だからとりあえず話は終わらせることにしたのだった。それを意識しての言葉である。
「今から博士のところに行く」
「ええ。それじゃあまたね」
「またな」
これで彼女と別れ建物の中に入る。建物の中はやはり学校の校舎を思わせる白い壁と廊下であり左右に教授達の研究室が並んでいる。彼はその奥にある研究室の扉の前に来た。そこの表札には大和田研究室とある。扉はクリーム色のプラスチック製であり外見はまともなものである。少なくとも異様な印象を与えるものではなかった。
彼はその扉をノックした。するとすぐに声が返って来た。
「どうぞ」
「はい」
その言葉に従い扉を開ける。するとそこには異次元があった。
扉からは想像もできない程広い部屋だった。部屋の中には本棚が何十個も並びそこには無数の本が詰め込まれている。奥が見えなくなる程だった。そしてその入り口に彼がいた。小柄で背も曲がった老人で長い左右にはねた白髪と髭だらけの顔を持っている。黒いコートを羽織りその下には青いアイボリーネックのスカーフに黒スーツがある。一目で只者ではないと思わせる外見であった。
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