暁 〜小説投稿サイト〜
木の葉芽吹きて大樹為す
双葉時代・反省編<後編>
[5/5]

[8]前話 [9] 最初 [2]次話
私を呼んだ。

「ねぇ、一度だけでいいから……僕の事、名前で呼んでくれませんか?」

 唐突にそんな事を求めて来た彼の目的が分からなくて、手を止める。

 目の前にいるのはマダラの弟で、私の昔の患者。父と母を殺した仇で、一族の敵。
 ――――彼の名前は。

「イズナ、君?」
「あなたの敵として、対等な相手として……認められたかったんです。ずっと、前から……、僕も、にい、さ……」

 ……眠る様にイズナが瞳を閉ざす。
 苦痛で強張っていた頬の筋肉が緩んで、安らいだ表情を浮かべる。
 さっきまで、弱々しくも灯っていた命の灯火が目の前で掻き消えたのを感じた。

「……っあ」

 嘆く資格なんて無い。そう思うのに、涙が零れ落ちるのを止められなかった。
 嗚咽が漏れ出るのを、唇を噛んで必死に堪える。木遁の印を組んで、木製の棺でイズナの亡骸を中へと収めた。
 いつからこんなに女々しくなったのだろう。本当に、情けない。

 目元を乱暴に擦って、涙を拭う。
 戦場に視線を巡らせ、他に人間が残っていないかを確かめる。どうやら私で最後の様だった。
 重たくなった足を叱咤して、その場を離れる。
 一族の集落に向かう途中で、背後の戦場から咆哮の様な嘆きの声が上がった様な気がした。

[8]前話 [9] 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ