第十一話 死神その九
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「そのタルトだけれど」
「ああ」
「何時作るの?」
今度尋ねたのはこのことだった。
「それは何時になるの?」
「今度の日曜にするか」
少し考えてからこう答えたのだった。
「それでいいか」
「うん、日曜ね」
日曜と聞いて明るい顔になる未久だった。
「わかったわ」
「菓子は時間をかけて作るものだ」
牧村は信念込めるようにして述べたのだった。
「じっくりとな」
「手間隙かけてってこと?」
「無論そうはいかない場合もある」
そうしたケースも否定しはしなかった。何かを作るにあたってはいつも同じ状況とは限らない。それもまたわかっているから言うのだった。
「特に商売ならな」
「手間隙かける余裕はないってこと?」
「手間隙をかけなくてはいけないがかけてはいけない場合にはだ」
「その場合はどうするの?」
「それならそれでやり方がある」
ケースバイケースだがそれでも努力を払うということだった。
「美味いものを作る方法がな」
「そういうものなのね」
「御前もそれを勉強するといい」
「勉強して身に着くものなの?」
「何度もしていればわかる」
こう妹に告げた。
「何度もな」
「つまり数しろってこと?」
「一度や二度でできるものではない」
話は経験論になっていた。その経験論に基いてさらに話をする。
「それはな」
「そういうものなの」
「何度でも失敗するものいいことだ」
失敗すら認めていた。
「何度でもな」
「何度でもって」
「そうやって学んでいくものだからな」
やはり経験論であった。しかしそれを隠すことはなかった。
「それでだ」
「ええ」
「最後に成功すればいい」
そして最後に、と述べた。
「最後にな」
「最後になの」
「最後に成功してこそだ」
また未久に対して言う。
「最後にな」
「そういうものなのね」
未久は兄のその言葉を聞いて考える顔になって述べた。
「お菓子作りって」
「お菓子だけに限らない。何でもだ」
「ふうん」
「かつて漢と楚が戦った時」
今度は歴史の話を出してみせた。
「漢の高祖劉邦は何度も敗れた」
「何度も?」
「時には五十五万の大軍を擁しておりながら油断して僅か三万の項羽率いる楚軍に敗れた」
「そんなこともあったの」
未久も授業で劉邦や項羽のことは知っていた。だがここまで見事な敗北があったとは流石に思わなかったのだ。この敗北こそが一敗地にまみれるの語源である。
「とにかく勝てなかった」
項羽はそれだけ強かったのだ。
「しかし最後に一回だけ勝った」
「一回だけね」
「それで劉邦は天下を手に入れた」
これは歴史にある通りである。
「その一回の勝利だけでな」
「そうだったの」
「だからだ。最後に成功
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