第十一話 死神その八
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「私って。そうでしょ?」
「そういえばそうか」
「そうじゃない」
兄の朴念仁な調子の言葉に口を尖らせるのだった。
「アイスクリームだってチョコレートだって」
「それにタルトもか」
「そういうこと。それでね、よかったら」
「そうだな。今度作るか」
「よかった、作ってくれるんだ」
兄の今の言葉に一気に明るい顔になった。
「それじゃあ。今度御願いね」
「さくらんぼのタルトだな」
「そうよ」
その明るい声でまた答えるのだった。
「さくらんどのね。御願いね」
「ではまた百貨店に行くか」
牧村はテレビを観ながら考えて述べた。
「百貨店にな」
「あそこの素材ってそんなにいいの」
「少なくとも菓子を作るには苦労しない」
未久の声は明るいのはいつものことだが彼の言葉が無愛想なのもいつものことだった。
「それにはな」
「そうなんだ。じゃあ私も一度」
「お菓子でも作るつもりか」
「ええ。最近そういうのにも興味があって」
見れば彼女は考える顔になっていた。その顔での言葉であった。
「だからね。いいわよね」
「悪いことじゃない」
牧村もそれには特に反対はしなかった。
「何かを作るのはいいことだ」
「そうよね。だったら」
「だが。御前がお菓子か」
牧村はそのことについても言ってきた。
「そうか」
「そうかって何か言いたいの?」
「いや、今まで作ったことがなかったからな」
彼が言うのはこのことだった。
「はじめてはな。いきなり難しいものは」
「作らない方がいいっていうの?」
「簡単なものにしておくことだ」
静かだが確かな言葉であった。
「今はな」
「ふうん。そういうものなのね」
「作るのならゼリーがいい」
「ゼリー!?」
「あれが一番簡単にできる」
だからだというのである。
「はじまりにはいい。だからだ」
「わかったわ。じゃあまずはそれね」
「そうだ。ゼリーだ」
「何のゼリーがいいかしら」
早速何のゼリーにするか考えだすのだった。この辺りの頭の回りの速さに個性が出ていた。
「オレンジとかピーチとか」
「ジュースは百パーセントにしておくことだ」
「百パーセントね」
「ゼリーにはそれが一番だ」
兄として妹に教えたのであった。
「そしてゼラチンを使う」
「あれ、寒天じゃないの?」
「ゼリーだな」
牧村が言うのはゼリーそのものについてであった。
「和菓子ではない筈だ」
「それはそうだけれど」
「御前はゼリーは弾力がある方が好きだったな」
「ええ」
兄のその問いに対して素直に答えた。
「そうだけれど」
「だから余計にだ」
「ゼラチンの方がいいのね」
「弾力が違う」
今度は断言だった。
「それも全くな」
「そう。それじゃあ
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