第十一話 死神その五
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「特に。今の牧村君はね」
「激しく動いているからか」
「そういうこと。くれぐれも気をつけてね」
「ああ」
短く若奈の言葉に頷いた。
「あと食べ物もだな」
「それもね。考えてね」
こんな話をしつつこの日もトレーニングに励んだ。その身体は日増しに引き締まりそうして動きも俊敏で持久力もかなりのものになっていた。だがそれでも彼は満足してはいなかった。
「まだだな」
帰り道のことだった。サイドカーで家に帰りながら一人呟いていた。呟きながら道を進んでいたのである。
「まだ。強くならなければな」
トレーニングにおいてもということであった。
「俺は。駄目だ」
そしてこう言った。
「今以上に強くならなければ。髑髏天使として」
「そうか」
ここで横から声がした。
「それ程強くなりたいのか」
「むっ!?」
「貴様は。髑髏天使として」
「誰だ!?」
声がしたのは右手だった。それでその右手を見てみるとだった。そこにいたのはあのハーレーダビットソンと黒いライダースーツにヘルメットだった。
「強くなりたいのだな」
「魔物か。それとも」
髑髏天使と呼ばれたことからすぐにこう考えた牧村だった。
「貴様は。一体」
「話をしようか」
だが相手はこう返してきただけだった。
「場所を変えてな」
「闘うつもりか?」
「それは貴様次第だ」
特に闘争心を見せることなく告げてきた言葉であった。
「それはな」
「闘わないというのか?」
「だからそれは貴様次第だ」
また言ってきた。
「それはな。とにかくだ」
「ああ」
「話をしようか」
この言葉もまた言ってきた。
「場所を変えてな。どうだ」
「そうだな」
牧村も今はその言葉に頷くことにした。周りには車や人が行き交い夕暮れの街を慌しいものにさせている。少なくともここで闘うわけにはいかなかった。
「変えるか。それでいいのだな」
「そういうことだ。それではな」
ハーレーダビットソンを右に曲げてきた。巨大なハーレーをまるで自分の身体のように扱い流れるように動いてみせたのだった。
「行くか」
「ああ、わかった」
牧村はそのハーレーの言葉に頷きサイドカーをついて行かせた。そうして案内されたのは行き止まりだった。先には壁があり向こうから赤い海と波の音が聞こえてくる。そこに案内されたのだった。
「ここならまず誰も来ないな」
「闘えるというわけか」
「何度も言うが私は闘いに来たわけじゃない」
こう牧村に返してきた。
「今の髑髏天使である貴様と話がしたいだけだ」
「俺とか」
「そういうことだ」
応えながらその黒いヘルメットを外してきた。そして。
「むっ!?」
そこから姿を現わしたその顔を見て。牧村は思わず声をあげたのだった。
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