第十話 権天その二十
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そこは人でごった返し様々な品が並べ置かれていた。パスタや生鮮もあるが牧村は今はそちらには目を向けず菓子や果物のある場所に向かった。そうしてまずはさくらんぼを手に取るのだった。その周りには他にも苺や葡萄等様々な菓子に使える食材が揃っていた。その数も種類も実に多彩だった。そして。
「あいつの言う通りだな」
ここで牧村はさくらんぼを手に取って見つつこう呟いた。
「これはいい。見事なものだ」
そのさくらんぼは赤く眩いまでに輝いていた。色彩だけでなくその果肉のつき具合も見事なものでしかも新鮮そのものだった。これならば最高のタルトが作られる、牧村もそのことを確信した。
そのさくらんぼを左手に持っている籠に入れそうして次は菓子の場所に向かおうとするとここで。彼の前にあの男が姿を現わしたのだった。
「会う約束はしていないが」
「人と会うのに約束はしない主義だ」
あの男だった。牧村の問いにこう返してきたのだった。
「俺はな」
「随分と礼儀には無頓着なようだな」
「少なくとも今はそうだ」
また言葉を返してきた。
「今はな」
「そうか。それではまたか」
「その通りだ」
男のぶしつけな言葉はそのままだった。
「もう一人呼んでいたのだ」
「そいつは何処だ」
「外にいる」
既に戦闘に心を向けている牧村に告げた。
「外にな」
「わかった」
「それまで貴様の都合を済ませておくのだな」
「すぐにとは言わないのか」
「これが貴様の最後の時間だ」
鋭い目での言葉であった。
「ゆっくりと過ごすがいい」
「随分と余裕があるのだな」
「俺の連れて来た魔物だ」
男はこう言った、
「手強くない筈がない」
「確かにな」
牧村もまたそれはよくわかっていることだった。否定することはできなかった。
「あのマニトーという奴もな」
「惜しい男だった」
ふと男の言葉に悔やむものが混じった。
「しかしだ。その弔いの為にもだ」
「そいつを出してくるのだな」
「その通りだ。上にいる」
そして牧村にこう告げた。
「上で貴様を待っている」
「わかった。では買い物を済ませてから行こう」
「買い物!?」
「今俺が行っていることだ」
男に対して静かに告げた言葉である。
「こうしてな。ものを金で手に入れることだ」
「それを買い物というのか」
「そうだ。それは知らないようだな」
「俺のいた国ではまだそんなものはなかった」
男は牧村と彼が手にしているそのさくらんぼを見つつ述べてきた。
「俺が封印された時にはな。まだな」
「そうか。それで知らないのか」
「その通りだ。だが随分と面白そうなものだな」
男は買い物というものに対して興味を抱いたようであった。
「それもまた」
「中には病みつきになる奴もい
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