第十話 権天その十五
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「あらゆるものが。それぞれ」
「そうよ。お水にしろそうだし」
「水もだな」
「何でも働いてやっといいコーヒーができるのよ」
若奈はあくまでコーヒーについて話していた。だから牧村がどうして鋭くなったのかは気付かないのであった。これは仕方のないこともでもあった。
「それでね」
「そういうものだな」
「そういうものよ。それでね」
「ああ」
「コーヒー。ブラックよね」
「今日はな」
「わかったわ。じゃあそのままでね」
出すと言うのだった。
「ミルクはつけないわよ」
「それで頼む」
「了解。けれど今日はちょっと珍しいんじゃないの?」
若奈はようやくできたコーヒーを白いカップに入れながらまた彼に言ってきた。白いカップに注がれた黒いコーヒーから湯気と香りが立っている。
「ブラックなんて」
「よく飲むと思うが」
「そうかしら」
牧村の今の返事に首を捻った若奈だった。
「私はそうは思わないけれど」
「ウィンナーだというのだな」
「ええ」
やはりそれであった。彼女のイメージでは牧村が飲むコーヒーといえばそれなのだった。生クリームをコーヒーの上に置いたあれである。
「あれだとばかり」
「親父さんがいる時には結構それを頼む」
「お父さんがいる時に?」
「たまたまだな」
実はそうなのだった。彼はその時の気分でコーヒーを選んでいるだけだ。若奈がいる時にはウィンナーコーヒーを頼むことが多いのもそういうことなのだった。
「それはな」
「そうだったの」
「そうだ。だから今の気分は」
「ブラックってことね」
「そういうことだ。だからブラックを」
「はい」
そのブラックを彼に差し出すのだった。やはりミルクもつけてはいない。
「どうぞ。満足してもらえたら嬉しいわ」
「どれ」
牧村はそのブラックを受け取るとまずは己の前に置きそのうえでカップを手に取る。そうして一口飲んでみてその味を確かめる。すると。
「ふむ」
「どう?」
「いいな」
まずはこう述べたのであった。
「いい味だ」
「そう。よかった」
「コーヒー豆の素材の味をよく生かしている」
コーヒー豆についても舌で見ていた。
「殺さずにな」
「お父さんによく言われてるのよ」
若奈は今の牧村の感想に微笑んで答えた。
「コーヒーは生き物だって」
「だから仕事をするのだな」
「ええ。いつも言われてるのよ」
「そうか。あの親父さんらしいな」
「それが美味くいったみたいね」
「それに水もいい」
牧村は今度は水について述べた。コーヒーのその水だ。
「この水は事前に沸騰させて湯冷ましをさせた水だな」
「そうよ」
そのことにも微笑んで答える若奈だった。
「うちのお店じゃそうしてるのよ。それでその白湯をコーヒーや紅茶に
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