第十話 権天その十四
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「それを何度も潜り抜けたみたいな」
「何度もか」
「ええ。それで鍛えられて強くなったみたいな」
こう彼に言うのだった。
「そんな感じだけれど」
「別にな」
当然ながら詳しいことは彼女には言わないのだった。
「何もない」
「そうなの?」
「そうだ。何もない」
髑髏天使のことは言うわけにはいかなかった。ここでも完全に隠している。
「何もな」
「だったらいいけれど」
「だが。それ程変わったか」
「ええ、それはね」
あらためて牧村の言葉に頷く若奈だった。
「スポーツ選手から騎士にって感じで」
「動きも変わってきたか」
「前よりもずっと素早くなった気がするわ」
若奈はまた答えた。
「それに力も強くなった感じでね」
「ならいいが」
「あと食事の量も増えてない?」
「むっ!?」
「ほら、今だって」
話は喫茶店に相応しいものになってきた。若奈が言うのだった。
「コーヒーとケーキ頼んでるじゃない」
「タルトをな」
「そう、さくらんぼのタルト」
この店での人気メニューの一つだ。コーヒーは若奈の父親が、そして菓子類は母親がこだわっているのだ。それだけにかなりの味がある。
「前だったらコーヒーしか頼まなかったじゃない」
「ああ」
「それが今じゃお菓子まで頼んで」
彼女が言うのはそこであった。
「やっぱり食べる量が増えてるわよ」
「そうだったか」
「まあこっちとしては注文が増えていいけれど」
「それだけ店が儲かるか」
「そういうことよ」
ここまで言ってにこりと笑うのだった。これは商売人の娘として当然のことでありそれに基づく笑みであった。
「やっぱりね。一つでも注文が多いとね」
「嬉しいか」
「ええ。ところで今日のコーヒーだけれど」
「もうそろそろできるな」
「ええ、もうすぐよ」
牧村に応えて述べてきた。
「今丁度最後の一仕事だから」
「一仕事!?」
「そう、コーヒーのね」
こう表現したのであった。
「それが終わってからだから。もうちょっと待ってね」
「コーヒーも働くものか」
「当たり前じゃない。コーヒーは生き物よ」
牧村の意外といった感じの言葉に当然という感じで返すのだった。
「だからね。働くのよ」
「そういうものか」
「何でもそうじゃない」
そしてこうも言う若奈だった。
「コーヒーやお水を温める火だって」
「火もか」
火という言葉を聞いて目を僅かに鋭くさせる牧村だった。
「それもか?」
「?どうしたの?」
若奈はその鋭くなった牧村の目に気付いて問うた。
「何か急にまた鋭くなったけれど」
「いや、何でもない」
やはりここでも答えない牧村だった。
「何でもな。しかし」
「しかし?」
「そうか。働くのか」
若奈
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