第八話 芳香その十三
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サイドカーに乗り帰路についている彼の目の前を何かが掠めた。それは。
「花か」
一輪の花だった。紅い、美しいが何処か毒々しさも漂わせている花だった。その花が彼のヘルメットの前を掠めて地に落ちたのである。香りは強くその場を一気に覆ってしまった。
「何故ここで」
「プレゼントよ」
ここで女の声がした。だがあの女の声ではなかった。
「私からのね」
「私から!?」
「そうよ。ここよ」
左手から声がした。そこを向くと。
紅のドレスの女だった。その女が妖艶な笑みを浮かべつつ左手の信号機の上に立っていた。黒髪は上でまとめられ白い顔がよく見えている。はっきりとした顔立ちはラテン系、それもフランスのそれを思わせる。服はスペインだが着ている者はフランス、そんなアンバランスな女であった。その女がいたのであった。
「髑髏天使よね」
「それがわかる御前は」
「そうよ。アルラウネ」
その妖艶な笑みと共に名乗ってきた。
「今度の貴方の相手よ」
「アルラウネ」
牧村はヘルメットのバイザー越しに女を見つつ相手が名乗ったその名を呟いた。
「また外から来た魔物か」
「その通りよ。欧州から来たわ」
「スペインか?」
「近いけれど違うわ」
微笑と共にそれは否定してきた。
「私の祖国はフランス」
「あのお高くとまった国か」
「それは人間の世界ね。少なくとも私の世界では違うわよ」
「魔物の世界ではか」
「ええ。だから」
また言ってきた。
「私も。今こうして貴方に会いに来たのよ」
「闘うのなら何時でもいいが」
そのアルラウネを見据えながら彼女に告げた。
「俺は」
「せっかちね」
だがアルラウネは今の彼の言葉は笑って打ち消してきた。
「そんなのだと女の子に好かれないわよ。それとも日本の男は皆そうなのかしら」
「妖怪や魔物は知らん」
まずはこう前置きする。
「人間も他の奴は知らないが俺はそうだ」
「そうなの」
「そうだ。それだけだ」
素っ気無い言葉はここでも健在だった。しかしアルラウネはそんな彼を口では言っても顔はそうではなかった。興味深い笑みを向け続けている。
「それで。どうするのだ?」
「闘うかどうかということね」
「そうだ。今も言ったが俺は何時でもいい」
またこのことをアルラウネに告げる。
「俺はな。どうするのだ」
「今は挨拶に来ただけよ」
これがアルラウネの返事だった。
「今はね」
「闘う気はないか」
「闘うのなら夜よ」
時間を指定してきた。
「夜。明日のね」
「明日か」
「場所は。そうね」
アルラウネは興味深い顔で牧村を見つつまた述べてきた。
「植物園でどうかしら」
「植物園か」
「そこで。どうかしら。この街のね」
「ならそこだな」
牧村はそ
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