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髑髏天使
最終話 日常その九

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「ザッハトルテがな」
「日本のザッハトルテね」
「オーストリアのザッハトルテとはまた違う」
 本場のそれとはだ。また違うというのだ。
「日本人の舌に合わせたザッハトルテだ」
「遂にできたのね」
「作っている間も今に至るまでもだ」
 今度は時間の話だった。それはどうかというとだ。
「あっという間だった」
「すぐに終わったのね」
「本当に早かった」
 こう言うのだ。
「ここまでな」
「そう。早かったの」
「お菓子を作っている間の時間は流れるのが早い」
 牧村はそのザッハトルテを見ながら話す。
「精神を集中しているからな」
「そういうことよね」
「そうだな。それにだ」
「それに?」
「食べている時間はより早い」
 その時はだ。さらにだというのだ。
「食べているものを見る時間もだ」
「つまりあれなのね」
 若奈は彼のそうした話を聞きながら述べた。
「食べ物にかける時間は短く感じるのね」
「全て一瞬に感じてしまう」
「確かにね。それが特に美味しいものだった場合はね」
「そうなるな」
「楽しい時間は早く過ぎるものだからね」
「なら俺はだ」
 若奈の今の言葉からだ。牧村はこのことがわかったのだった。
「お菓子を作ることを楽しんでいるのだな」
「そうよ。それでそれってすごくいいことよ」
「いいことか」
「だって。好きこそものの上手なれよ」
 にこりと笑ってだ。そうだと話す若奈だった。
「牧村君いいお菓子職人になれるわよ」
「ならいいのだがな」
「なれるわ。じゃあ妹達呼ぶから」
 お菓子ができたからだ。彼女達も呼ぶというのだ。
「そうするからね」
「わかった。それならな」
「それならよね」
「皆で食べよう」
 声だけをだ。微笑まさせての言葉だった。
「是非な」
「お父さんとお母さんはいないけれどいいわよね」
「買出しに行っていたな」
「そうなの。今はね」
 それでだというのだ。
「それが残念だけれどね」
「そうだな。あの人達にも食べてもらいたかったな」
「ええ。けれどまたの機会にってことでね」
「そうしてもらうか」
「じゃあ。あの娘達にも連絡するから」
 言いながら携帯を取り出してだ。メールを送った。すると程なくだ。
 妹達が来てだ。カウンターのところに座って笑顔で言ってきた。
「じゃあザッハトルテよね」
「それよね」
「ええ、それよ」
 若奈はカウンターの中から笑顔で妹達に話す。
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