最終話 日常その六
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「一度食べればもう普通の食べ方では物足りなくなるのう」
「そうですね。これは本当にいいです」
ろく子だ。今は首を引っ込め人間と同じ姿で食べながら話した。
「メロンといえば昔は」
「御馳走じゃったな」
「まるで宝石でした」
そこまでだとだ。博士とろく子はメロンについて話す。
「高価で。とても手が出せませんでしたね」
「戦前も戦後もな」
「長い間そうでしたね」
「南方では食べられた」
「けれど日本では」
「とても食べられんかったのう」
しかしだ。今はだった。
「こうして食べられるのも夢の様じゃ」
「食べられない時は夢の様でしたけれど」
「食べれば美味いがな」
「夢じゃなくなりましたね」
「そうはならんかった」
そうなったとだ。博士は話した。
「そして食ってみた」
「どうでした?いつも食べられるようになったメロンは」
「美味い」
まずはこう言った。
「しかしじゃ」
「しかしですか」
「有り難味はなくなった」
それがだ。なくなったというのだ。
「どうもな」
「食べられないものならですね」
「余計に有り難くなるものじゃ」
人間心理であった。まさにそれだ。
「しかしそれがなくなってじゃ」
「物足りなくなったんですね」
「うむ。今は誰でも何でも食える」
そうした意味ではだ。人類社会、日本はよくなったと言える。
「北海道に行けばメロンなぞ腐る程ある」
「だよね。蝦夷って凄いよね」
「メロンもジンギスカンも牛乳もあってね」
「もう御馳走の宝庫」
「凄いの何のって」
妖怪達も北海道について話す。
「けれど。食べられないものを食べられるっていうね」
「そうした有り難味はなくなったね」
「確かにね」
「いいことじゃが寂しいな」
博士はまたこう言った。
「しかしふんだんにあると思えばこれ程嬉しいことはないのう」
「そうだな。それではだ」
牧村はそのメロンを食べながら話す。
「このメロンを食べさせてもらおう」
「その北海道のものですよ」
ろく子が明るく牧村に話す。
「一杯ありますから楽しんで下さい」
「アイスクリームもブランデーもか」
「勿論です。戦いが終わったお祝いに」
どうするか。ろく子は話すのだった。
「ふんだんに食べて下さい」
「わんこメロンじゃ」
博士はその半分のメロンをぺろりと、アイスクリームやブランデーまで全て胃の中に入れてからだ。そのうえで話をするのだった。
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