第八話 芳香その二
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「だからね。やっぱりそれにしたのよ」
「成程。ねえお兄ちゃん」
「何だ」
「最近痩せてきてない?」
兄の顔を見ながらの言葉だった。
「っていうか引き締まってきたかしら」
「そうか」
「食べる量は倍になったけれど」
このことを言うことは忘れない。
「それでもね。痩せたわよね」
「テニスにフェシングよね」
母親が彼がしているものを言ってきた。彼女は今は椎茸を食べている。
「その二つ同時にしていたらそれこそに」
「トレーニングも毎日欠かさないし」
「当然だ」
いつもの調子での妹に対する返事だった。
「それはな」
「トレーニングもなの?」
「そうでなければ動けない」
こうも言ったのだった。
「満足にな」
「それはそうだけれどね。それにしても随分と熱心ね」
「そうか」
「そうよ。大会にも出るの?」
「大会!?そりゃ凄いな」
今まで牧村には話し掛けて来なかった父親が大会と聞いて彼に声をかけてきた。
「そうか。来期もそういうのに出るようになったんだ」
「何言ってるの、お父さん」
母親がここで父に突っ込みを入れてきた。
「前にも出たじゃない、陸上で」
「それは知ってるよ」
息子のことに無知というわけではない。流石にこういうことは承知しているのだった。
「走り幅跳びやら短距離走でだったよな」
「そうよ。覚えてるじゃない」
「これでも子供の誕生日だってちゃんと覚えてるよ」
つまり子供のことはいつも気にかけているということである。
「それはね」
「だったらいいけれど」
「それで来期」
息子に直接声をかけてきた。
「どうなんだい?フェシングは」
「かなりよくなった」
素っ気無く語る牧村だった。父に対しても。
「それはな」
「じゃあテニスはどうなのかな」
「そちらもだ」
素っ気無い言葉で父にも顔を向けてはいない。しかし確かな声での返答だった。
「それはな」
「そうか。ならいい」
そこまで聞いてまずは満足した顔になる父だった。
「それならな。しかし来期はなあ」
「どうしたの?お父さん」
「いや、いつもの調子だなって思ってね」
今度は未久の言葉に対して返したのだった。
「本当にね。いつもの」
「確かに。お兄ちゃんっていつも無愛想なのよね」
「あんたが生まれる前からよ」
母親も言ってきた。前にいる息子を苦笑いを浮かべながら見ての言葉である。
「もうね。ずっと」
「無愛想なの」
「そうよ。子供の頃からよ」
「子供の頃からなの?」
「だからあんたが生まれる前から」
「じゃあ四つや五つの頃からなの」
「そうなのよ」
そこまで小さな頃からなのだという。思えばそれはそれでかなりのものである。子供の頃から愛想がないというのもそうはないこと
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