第五十六話 使長その十二
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そして鹿の角があちこちに生えている。その姿が出て来たのである。
その得体の知れないものを見てだ。死神が言った。
「イホウンデーか」
「そうよ」
その得体の知れないものから返答が来た。
「私がイホウンデーよ」
「ナイアーラトホテップの妻にして腹心だったな」
「如何にも。その通りよ」
「混沌で夫婦になっているのは貴様等だけ」
死神はこのことも言った。
「その貴様とここで会うとはな」
「混沌の神はだ」
男も言ってきた。ここでだ。
「そもそもそうした考えはない」
「婚姻は」
「ないんだね」
「そうだ、ない」
こう魔神達にも話すのだった。
「我々には。この世界の常識はない」
「そもそも常識自体がないな」
「あるのは混沌のみ」
「それが貴様等だな」
「そうだな」
「その通りだ。だが私達は違う」
男の言葉が二人称になった。
「こうして二人でいるのだ」
「私達は共に生まれた存在」
その得体の知れない女神も言う。
「混沌の原初の中から」
「私達四柱はそうだ」
彼等だけではないとも言う男だった。
「混沌の中にだ。生まれてきたのだ」
「その中で私だけが女だった」
「そして私だけが男だった」
つまりだ。性別があったのは彼等だけだというのだ。混沌の原初の中から生まれた存在ではだ。
「だからこそね」
「夫婦になったのだ」
「混沌の中にはないものを」
「あえてしてみたのだ」
「それが貴様等か」
牧村はここまで聞いてまた述べた。
「道化になったつもりか」
「道化?あれか」
男が牧村の言葉に反応を返してきた。
「我々はそれだというのか」
「それでしているというのか」
「そうかも知れない」
その可能性をだ。否定しない男だった。
「道化という言葉は人間達を見てはじめて知ったがな」
「自分をそれだと認めるのか」
「人間を嘲笑する存在だ」
それがだというのである。
「私だ。ただしだ」
「ただし。何だ」
「私は人間だけを嘲笑する存在ではない」
「他の存在もか」
「この世のあらゆるものを嘲笑する。それが私だ」
混沌の神として。そのことを話すのだった。
「このナイアーラトホテップなのだ」
「それがか」
「ではだ。私はだ」
静かに言ってだ。男はだ。
闇の中に消えた。そして声だけで牧村達に話した。
「この戦いも見させてもらおう」
「伴侶の戦いを見るのか」
「そうだ。そうさせてもらう」
こう牧村達に告げるのである。
「ゆっくりとな」
「さて、それではだ」
「はじめるとするか」
牧村と死神はあらためてだ。神を見た。
その神は相変わらずの姿だ。その姿でだった。
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