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髑髏天使
第五十五話 魔水その十一
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「身体だけでなく心も傷つけるのじゃよ」
「圧倒的な暴力なら尚更だな」
「圧倒的な暴力は受ける相手を無力にしてしまう」
 だからこそ恐ろしいのだ。博士は珍しくその目を怒らせていた。
 そうしてだ。そのうえで話すのだった。
「傷は。受けられるままになり尚更にじゃ」
「傷つけていくな」
「左様じゃ。そうしていくものじゃ」
「それが暴力だな」
「心を傷つけていく」
 暴力について話していく。
「それが厄介なのじゃよ」
「そうした人間を見てきた」
 牧村は話す。
「だから思うのだ」
「そんな暴力振るう奴なんて許せないけれどね」
「どうせ人間の屑だろうけれど」
「そいつどうなったか知りたいけれど」
「どうなったの?」
「警察に通報された」
 そうなったと述べる牧村だった。
「そして被害者から引き離され後でヤクザ者に喧嘩を売ってコンクリートと一緒に海の中だ」
「自業自得だね」
「っていうかそういう奴って絶対に碌な末路迎えないからね」
「もうこれって世の中の絶対の法則だよね」
「悪事は必ず己に跳ね返る」
 博士は今度は神妙な声で述べた。
「それからは逃れられんのじゃ」
「そいつは悪事に相応しい末路を迎えた」
 牧村も言う言葉が冷たい。
「しかし。暴力を受けた人間の心の傷は深い」
「それを見てきたから」
「だから牧村さんは言うんだ」
「人間として生まれ変わりたい」
 妖怪達もここまで聞いてわかった。彼のその考えがだ。
「確かに。心の傷も残るよ」
「記憶が残るんだからね」
「どうしても」
「そうだ。それにだ」
 牧村はここでこうも言った。
「髑髏天使でいることは今だけでいい」
「次の人生ではもういらない」
「それもなんだ」
「俺は今は髑髏天使だ」
 そのことは受け入れる。しかしだというのだ。
「だが、次は普通の人間か動物として生きたい」
「もう髑髏天使じゃなくて」
「他の存在になりたいんだね」
「そう思う。だからだ」
「そういうことなのじゃな」
 博士も言った。そうして。
「では君はじゃ」
「妖怪にはならない」
 それを言う牧村だった。
「妖怪は嫌いではないが」
「人間だね」
「人間でいたいんだ」
「次も」
「人間でなければ他の生物だ」
 どちらにしろ妖怪ではないというのだ。
「それでいたい」
「それもいいね」
「まあ僕達は妖怪だけれどね」
「それでも。それなら」
「それもいいね」 
 こうした話もしたのだった。そしてだ。
 牧村は苺を堪能した後で研究所を出た。そして大学の講義に向かおうとした。
 だがそこでだ。不意にだった。
 校舎のビニールの廊下を進む彼の周りが一変した。そこは。
 嫌な、胸の悪くなる様々な濁った色の水が四方八方に渦巻
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