第五十五話 魔水その五
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「衰えてはおらんぞ」
「凄いねえ。百十歳なのにね」
「あれっ、百二十歳だった?」
「どうだったかな、そこは」
「幾つだったっけ、博士って」
博士の年齢はだ。結局今もはっきりしないのだった。
「戸籍じゃ百十五歳だったかな」
「それ位?」
「けれど日清戦争がどうとか言ってたし」
「日露戦争はもっとはっきりだし」
「日韓併合の時はもう物心ついてたって?」
「じゃあ百二十歳?本当は」
「その位?」
まさにだ。歴史の生き字引であった。
「ううん、何か仙人みたいだね」
「人魚の肉を食べたみたいな」
「僕達と同化してるかな、やっぱり」
「妖怪化してるのかな」
「しておるかものう」
自分でもそれを否定しない博士だった。
「ひょっとしたらのう」
「やっぱりねえ」
「そうなのかな」
「前にもこんなこと話したけれど」
「やっぱり僕達と」
「一緒になってきてる?」
「妖怪化してる?」
こう考えていく。そしてだ。
妖怪達はだ。あらためてこう話すのだった。
「そうだったら歓迎するからね」
「博士は僕達の友達だし」
「喜んでね。ずっと一緒に暮らそうね」
そしてだ。あの歌を皆で歌うのだった。
「楽しいな楽しいな」
「お化けは死なない」
「試験も何にもない」
妖怪達は楽しげに踊りながら歌うのだった。
そしてそのうえでだ。こうも歌うのだった。
「朝は寝床でぐーーぐーーぐーー」
「夜は墓場で運動会ってね」
「その歌か」
牧村も彼等のそうした歌を聴きながら述べた。
「それを歌うか」
「牧村さんもどう?」
「一緒に歌わない?」
「この歌名曲だからね」
「どうかな、一緒に」
「いや、いい」
それはだ。いいという牧村だった。
彼はだ。今はこう言うのだった。
「歌を歌うことは苦手だ」
「あっ、そういえばこれまで歌ったことってないよね」
「見たことないよ」
「歌嫌い?」
「そうなの?」
「聴くのは好きだ」
それはだ。いいというのである。
「しかしだ。歌うのはだ」
「嫌いなんだ」
「そうだったんだ」
「歌うことには抵抗がある」
こう話す。いささか憮然とした顔でだ。
「どうにもな」
「音痴って訳じゃないよね」
「それはないよね」
「まさかと思うけれど
「音痴ではないじゃろうな」
博士がここでまた言った。丁度その前に苺が乗せられた白い皿が来た。ろく子が差し出したのである。それを一個手に取りながらの言葉だった。
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