第五十五話 魔水その四
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「それ以外でなければだな」
「自分を映し出すもので見なければのう」
「わからないし気付かない」
「それが人間なのじゃよ。ただし鏡もじゃ」
「それはそれでだな」
「癖のあるものじゃ」
こう話すのだった。その自分自身を見る鏡もだというのだ。
「正確に自分を見られるかというと」
「違うよね」
「鏡もね」
「それはないよね」
妖怪達も言う。その鏡についてだ。
「だって。鏡は自分を逆に見るから」
「逆に見るものだからね」
「正確に見えないからね」
「完全には」
「そうじゃ。それに気をつけて見なければいかん」
博士は強い声で述べた。
「何も考えずに見てはいけない」
「鏡は。そうしたものだな」
「わかったかのう。鏡を見るのも用心が必要なのじゃ」
博士はここまで話した。そしてだ。
話を終えたところでだ。ここでだった。
傍に来ていたろく子に顔を向けてだ。こう告げた。
「それではじゃ」
「はい、お菓子ですね」
「今日は何かのう」
楽しげにだ。ろく子に顔を向けたまま尋ねる。
「どんな甘いものかのう」
「野菜です」
ろく子は笑って述べた。
「野菜ですが」
「ふむ、野菜か」
「苺です」
具体的にはだ。それだというのだ。
「それで如何ですか」
「よいのう」
まずはだ。笑顔で答える博士だった。
「苺は大好きじゃ」
「あれっ、博士苺食べても大丈夫なの?」
「苺を食べても」
「いけるの?」
「安心していいの?」
「大丈夫じゃよ」
白い髭の中から歯が見える。白い歯がだ。
「入れ歯に。苺の粒が入るというのじゃな」
「うん、そうならないの?」
「それはいいの?」
「いけるの?」
「わしの歯は一本も欠けてはおらんからな」
だからだ。大丈夫だというのだ。
「苺でも何でもな」
「食べられるんだね」
「そうなんだね」
「そうじゃ。苺だけではない」
それに留まらないというのだ。苺だけではないとだ。
「煎餅も何でも食べられるぞ」
「ああ、そういえばクッキーも好きだよね」
「そうだよね」
妖怪達はここでこのことを思い出した。
「じゃあその歳でなんだ」
「歯は一本も欠けてないんだ」
「そうだったんだ」
「このことは前に話しておったと思うが」
博士はこのことを思い出して述べた。
「背は縮んだがそれでもじゃ」
「頭だけじゃなくて歯もだね」
「大丈夫なんだね」
「そうだったんだね」
「左様、その通りじゃ」
また言う博士だった。
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