第五十四話 邪炎その七
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「御姉ちゃんが中学の時にね」
「決まったよね」
「私まだその時小学生だったけれど」
「私なんて子供だったけれど」
それを聞くとだ。かなり昔に聞こえるのだった。
「覚えてるしね、御姉ちゃんが言ってたの」
「うん、はっきりとね。牧村さんとね」
「結婚するってね」
「言ってたから」
「ちょ、ちょっと二人共」
妹達の言葉に慌てたのは長姉だった。顔を真っ赤にして同じ顔をしている妹達に言う。尚背の高さまで同じ位だ。三人共実によく似ている。
「私そんなことは」
「言ってるじゃない」
「ねえ」
しかし妹達は真剣な顔で述べる。
「今だってね」
「言ってるから」
「そんなこと言ってないわよ」
何とかそれを否定しようとする彼女だった。明らかな言い繕いではあってもだ。
「そうよね。お父さんだって聞いてないわよね」
「まあそういうことにしておくか」
父は苦笑いと共にこう言うのだった。
「今はな」
「その言い方じゃ何か」
「いいじゃないか。どっちにしろ牧村君はうちの店に来てもらう」
最低限のことさえ隠しているかどうかわからない言葉ではあった。
「そういうことでな」
「それは絶対になのね」
「絶対なのはそこまでにしておくか」
店に来るという意味をわざとぼかしての言葉だった。
「そういうことでな」
「何かその言葉も聞いてると」
若奈は眉を顰めさせて父に返した。
「狐につままれたみたいな気持ちになるけれど」
「ははは、狐か」
「ええ。狐にね」
言う言葉はそれだった。
「そんな感じになるわ」
「じゃあ今日はきつねうどんにするか」
「そこで何でそうなるのよ」
「若奈が狐と言ったからだよ」
腕を組んでだ。笑って娘に返す。
「それでだよ」
「何か今一つよくわからないけれど」
「そうか?」
「そうよ。だから何できつねうどんなのよ」
それがだ。どうしてもわかりかねている若奈だった。顔にもそれが出ている。
「狐につままれたって言ってそれでって」
「わかるわよね」
「そうよね」
ところがだった。妹達もここでこう話すのだった。
「お父さんが何を言いたいのか」
「結構あからさまよね」
「そうそう」
「そう?」
姉は妹達に口を尖らせる様にして顔を向けた。
「わかるの?」
「簡単というか単純な連想よね」
「もう考えるまでもない位にね」
「そうなの」
首を傾げさせて言う今の若奈だった。
「もう何が何だか」
「落ち着くことだ」
牧村はこう言ってだ。彼女に飲み物を出して来た。アイスティーだ。
その紅茶にはミルクが添えられている。銀色の小さなポットにだ。
それとストローだ。それを差し出してからまた言う彼だった。
「これでも飲んでな」
「紅茶ね」
「アイ
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