第五十二話 死風その十七
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「その辺りはだ」
「そうなのね」
「そうだ、だからだ」
「成程ねえ。お兄ちゃんも変わるのね」
「人は誰でも変わる」
牧村は言いながらソファーに座った。そうしてそこでお茶を飲んでだ。また話すのだった。
「誰でもな」
「じゃあ私もよね」
「そうだ。御前も変わる」
「そうなのかしら」
未久は冷蔵庫を開けていた。そこから牛乳を出している。そうしてそれをコップの中に注ぎ込みながらだ。兄に対して言葉を返していた。
「私も変わるの」
「少しずつにしてもな」
「何か自分ではね」
「そうは思わないか」
「全然ね。実感もないし」
こう牧村に返す。
「背だって伸びないし」
「身体のことは関係ない」
「心っていうのね」
「それが少しずつ変わっていく」
「だといいけれどね」
「ではだ」
ここまで話してだ。それからだった。
牧村は一杯飲んだ。そうして一杯入れてだ。飲む。未久はその兄に言った。
「ねえ、そのお茶何なの?」
「麦茶だ」
それだと返す。まだ暑いのでそれを飲んでいるのだ。
「美味い」
「ううん、麦茶もいいけれど」
未久はコップの中の牛乳を飲みながら難しい顔をするのだった。その麦茶を見てだ。
「あれだからね」
「あれとは何だ」
「麦茶を飲んでも背は伸びないし」
言うのはこのことだった。
「それに胸もね」
「胸か」
「大きくならないから」
こう言うのである。
「あまりね。飲むのは」
「嫌か」
「やっぱり牛乳よ」
それだというのである。彼女が今それを飲んでいるのはそうした理由からだった。
「これを飲むのがね」
「いいか」
「やっぱりこれよ」
また言う未久だった。
「絶対に大きくなるから」
「そうして変わりたいか」
「背は大きくしたいわ」
また言うのであった。
「やっぱりね」
「そこは変わったな」
兄は妹のそんな言葉を受けて述べた。
「昔はそうしたことは言わなかったししなかったがな」
「こういうところが変わったっていうのかしら」
「そうなるな。やはりな」
「ううん、そうなのね」
「誰でも変わる」
麦茶を飲みながら述べた。
「何かがな」
「変わるんだったら」
未久は兄のその言葉を聞いてこう言った。
「いい方向に変わりたいわね」
「そうだな。どうせならな」
「そう思うわ」
こう言いながら牛乳を飲む。そうしてだった。二人は話をするのだった。兄妹で。
第五十二話 完
2011・1・26
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