第七話 九階その十一
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「御礼とか言われるのって」
「ないんだよね」
「妖怪だからか」
「妖怪ってさ。人を驚かせるじゃない」
「まあそれが趣味なんだけれど」
この辺りは微妙なものがあった。確かに妖怪といえば人を驚かせるものである。こうした部分は妖精達と全く同じ性質であるのだ。
「だからさ。そんな僕達がね」
「御礼言われるのってね」
「ないのだな」
「そういうこと」
「珍しいなんてものじゃないよ」
口々にこう言うのだった。
「こんなことってね」
「牧村さんってそういうのこだわらないんだ」
「こだわるも何もだ」
また静かに語る。
「俺は今は御前等に何も思わない」
「変わった!?」
「最初は驚いていたのに」
「驚いたのは確かだ」
牧村もそれは認める。
「しかしだ。今は」
「違うんだ」
「やっぱり変わったね、牧村さん」
「それも随分」
「俺は。下手をすればだ」
ここで牧村の顔が深刻なものになった。微かにではあるがそれは確かなものがあった。
「御前等よりも化け物かも知れない」
「化け物!?」
「牧村さんが!?」
「そうだ。俺は髑髏天使だ」
このことを語る。
「しかし。その俺はだ」
「全然違うっていうの?」
「天使なのに」
「心が違う」
不意に心を言葉に出す牧村だった。
「俺の心は。御前等とは違ってきているのかもな」
「!?そうかな」
「全然普通よね」
「ねえ」
妖怪達は彼のその言葉を聞いて首を捻る。
「全然おかしくないし」
「何処がなんだろ」
「わからないならいい。しかしだ」
「しかし?」
「やっぱりおかしい感じ?」
「俺は。大天使には終わらないみたいだな」
「とりあえずこのまま闘っていけばそうなるよね」
「ええと。それでここにどうして来たんだっけ」
「博士だったよね」
酔っている者はもう記憶があやふやになってきていた。
「博士に何を聞きに来たの?」
「それは何だったの?」
「カバラだ」
先程読んでいたその言葉を告げた。
「カバラだ。ユダヤ教の」
「カバラって何?」
「さあ」
しかしこれは誰にもわからない。彼等にとっては全く理解不能のものだった。
「何だろうね」
「魔物の名前?」
「いや、そうじゃない」
魔物というのは否定した。
「魔物ではなく。秘術だ」
「秘術ねえ」
「魔法みたいなものみたいだね」
「少なくとも俺に関係しているものらしい」
そして今度はこう言った。
「どうやらな」
「髑髏天使にってことかな」
「そうじゃないの?」
「その通りだ」
このことを牧村自身も認めた。何故かそう語る顔も目も声も牧村ではなく髑髏天使のものになっていた。しかし彼も妖怪達もこのことには気付かなかった。
「髑髏天使、俺のことだ」
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