第五十一話 解放その十六
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「死ぬな」
「死んでは何にもならないか」
「だからだ。いいな」
こう告げるのだった。
「死ぬな」
「安心しろそのつもりはない」
牧村も言う。しっかりとした声でだ。
「俺は死なない。絶対にだ」
「生きるか」
「人間として生きる」
ただ生きるだけでなくだ。そうするというのだ。
「そうする」
「人間か」
「俺は人間だ」
出すその言葉は揺るぎない。
「それ以外の何でもない」
「いいことだ。それではだ」
「人間として最後まで戦いか」
「そして生きろ」
死神は牧村の顔を見て告げた。
「私もまた生きる」
「貴様は死神としてだな」
「人間ではないがそうして生きる」
これが彼だった。
「そうする」
「わかった。ではな」
「まただ」
死神の前にハーレーが来た。あのハーレーだ。
「また会おう」
「そうだな。俺もこれでだ」
「またね」
目玉も出て来て声をかけてきた。
「これからが正念場だけれど」
「そうだな。それはな」
牧村も目玉のその言葉を受けて言う。
「いよいよだな」
「一つでも負ければ終わりだ」
死神はハーレーに乗りながら牧村に話した。
「そこでだ」
「世界も。俺達もだな」
「そうだ。混沌に飲み込まれたくはあるまい」
「格好いいことは言わない」
牧村はそのつもりはなかった。彼もまたサイドカーに乗ろうとしていた。
「だがだ」
「それでもか」
「そうなんだね」
「そうだ。混沌に飲み込まれるつもりはない」
これが彼の言葉だった。
「人間として人間の世界でだ」
「生きるのだな」
「そのつもりだ。それだけだ」
ハーテーに乗っての言葉だった。
「それではだ」
「もう行くか」
「そうさせてもらう。それではな」
「またな」
こうしてだった。お互いにバイクに乗り別れるのだった。牧村はそのうえで家に帰りそうしてだった。最初に妹に会ったのだった。
「お帰り」
「ああ」
「何かいつも通りね」
未久は玄関にあがる兄にこう述べたのだった。
「いつも通り無愛想ね」
「そうか」
「うん、その態度がね」
まさにそうだというのである。
「いい感じにいつも通りね」
「何も意識していないが」
「意識しなくてできるのが凄いわ」
未久はまた兄に告げた。兄は話をしながらそのうえで家にあがった。本当に何もかもがいつも通りだ。少なくとも妹から見ればだ。
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