第一話 刻限その十
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「貴様なんぞに食われてたまるか。その位なら」
「またその重く速いもので俺を打つつもりか」
「何度でもな。貴様も今ので無傷ではない」
頭から血を流しているのが何よりの証拠だった。流石に百キロを超える速度で重量のあるサイドカーの体当たりを受けてはさしもの異形の者も無事では済まなかったのだ。
「ならば。また」
「では来い」
虎人も受けて来た。
「貴様は何としても食う。絶対にな」
「そこまでして俺を食いたいのなら」
今の虎人の言葉は牧村をさらに燃え上がらせただけだった。クールだがそれでもその中には静かだが激しい炎が燃え上がっていたのである。
その炎を見せ。彼は再びサイドカーのアクセルを効かし前に突っ込んだ。そしてその時だった。
「むっ!?」
「行くぞ」
この時彼は何故虎人が声をあげたのかわからなかった。そしてそれに気付いてもいなかったのだった。
「今度こそ。これで貴様を」
「馬鹿な、ここで出て来たのか」
アクセルを効かして突撃をはじめた牧村を見て虎人は。怪訝な声をあげていた。
「そして貴様が。まさか」
「何を言っている・・・・・・むっ!?」
遂に彼自身も気付いた。己の周りにある光に。
「この光は。何だ?」
「髑髏天使」
虎人は不意に牧村がはじめて聞く言葉を出してきた。
「そうか。五十年に一度現われるのだから。それが今だったか」
「五十年!?何を言っている」
光には気付いていたがそれでも己自身には気付いていなかったのだった。
「五十年でも百年でも。俺は貴様を」
「最早喰らうつもりはない」
虎人は己の執着を捨て去ったのだった。
「倒す。髑髏天使は」
「髑髏天使が何かは知らん」
牧村にとって今はそんなことはどうでもよかった。
「ただ。貴様を倒す。それだけだ」
「倒さなければ俺が倒される」
虎人の言葉にこれまでにない危機が宿っていた。それは己の生存を賭けた本能的なものであった。その獣めいた危機感を見せつつ前に突っ込んで来た。サイドカーに対して。
「ならば。ここで」
「来るか・・・・・・それなら好都合だ」
サイドカーを突っ込ませつつ何故かその上で身構えた。
「体当たりの後で。貴様を」
突っ込んで来る虎人を見据えていた。何故かここで彼は無意識に動いていたのだった。
「倒す。来い」
虎人はそのまま突っ込む。突撃するサイドカーに対して正面から。だがサイドカーの速度は先程のものよりも遥かに速かった。そしてその重さもまた違っていた。その重さと速さは虎人ですら耐えられるものではなかった。
「ぐわっ・・・・・・」
虎人は大きく後ろに吹き飛ばされた。先程とは比較にならない程吹き飛び宙に舞う。だが牧村はこれで終わらせることはなかった。
サイドカーを走らせたまま跳んだ。
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