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レンズ越しのセイレーン
Mission
Mission6 パンドラ
(3) ニ・アケリア村 参道側通用門前(分史)
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ガーのGHSを奪い取り、通話を切った。

「何するんだ!」
「後は俺に任せろ。時計を渡すんだ、ルドガー」

 何を聞く気も、話す気もない。冴えた声は言葉そのものより雄弁にそう語っていた。

「やらない。元々これは俺の時計だ」

 返さない。奪わせない。ルドガーはポケットから真鍮の時計を取り出し、唇を噛んで見下ろす。牙を剥く直前の獣と、泣き出す寸前の幼児を均等に混ぜた表情。

「お前が持っていても使えない」
「使える。兄さんだって列車テロの時見てただろ。俺が骸殻に変身するの」
「そういう意味じゃない。骸殻は単なるブースターじゃない。これはオリジンの審判に挑むクルスニクの一族のみが持つことを許された特別な時計だ。お前にその覚悟があるのか? 世界を、人を、精霊を。選べるか、ルドガー・ウィル・クルスニク」




 ルドガーはほんの数週間前まで市井の一般人だった。
 それがたまたまテロの現場にいたせいでなし崩しに巻き込まれ、流れ着いた先が今――クランスピア社、分史対策エージェントという立場だ。

 分史対策エージェントはただ分史を壊せばいいというわけではない。クルスニク血統者は、全員がオリジンの審判に参加する権利を持ち、カナンの地への一番乗りが叶えば何でも願いが叶う。

 正直、スケールが大きすぎる話だった。
 覚悟があるのか、と問われて、ルドガーは両拳を食い込むほどに握りしめた。

 もう半年も前になるのに、まざまざと蘇る悪夢。夢で同じようにユリウスが「選択」を迫り、何が何だか分からないままルドガーも戦った。結果は惨敗。さらには現実でまで、入社試験に不合格になる始末。

 ――たとえ何かしたいと思っても、ルドガーは邪魔だとこの道のプロのユリウスが言い切った。

(そんなに俺をこの舞台から弾き出したいのか? そんなに俺はこの審判に参加する資格に足りてないってのか?)

 上等だ。ルドガーとて元はただの小市民だ。街の小さな食堂でフライパンを振っているのがお似合いの安っぽい男だ。そんな男に救われては世界も喜べまい。完璧な兄がすべてやるというのだから、やらせてしまえばいい。

(こっちから願い下げだ。認めない兄さんも、メチャクチャな状況も、みんなみんな俺には関係ない!)






 ルドガーは悲憤をぶつけるように金時計を地面に叩き捨てた。

「もういいよ。兄さんの好きにすればいい。俺は関係ない。世界なんてどうにかできる奴がどうにかしやがれってんだ」 

 骸殻への変身手段、オリジンの審判への参加証を、捨てた。

 ――やった。ユティは心中で快哉を叫んだ。

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