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銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第二百五十四話 赦しを請う者
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堕としたいと思った、一人では辛かったから。そして救ってやりたいと思った、辛すぎるから……。能力も有り出世もしていた男だ、矜持が無かったとは思えない。ラインハルトの手先として活動すれば行き着く先は破滅だと分かっていたはずだ。原作のリンチは何処かで死を、救いを求めていた。今もそうなのかもしれない……。

リンチはそんなにも自らを責めなければならないのだろうか。エル・ファシルのリンチは不運だと俺は思う。もし同じ立場になったとしたら殆どの人間がリンチと同じ行動をとるんじゃないだろうか。民間人を連れて逃げる事が不可能な以上、次善の策は救援を呼んで民間人を奪回する事だ。封鎖を突破して味方を連れて戻ってくる。おかしな発想じゃない。

もしヤンが居なかったらどうだっただろう。リンチは突破に失敗し民間人も全て捕虜になった。同盟軍は正直に話すことが出来たはずだ。“リンチ少将は味方を救うため危険を冒して封鎖を突破しようとした。しかし武運拙く捕虜となった……” 民間人を見殺しにしたと非難できるだろうか、他に手が有るかと言われれば沈黙するしかないだろう。

ヤンが奇跡を起こしたばかりにリンチは手酷く非難された。ヤンを責めるつもりは無い、あの状況で民間人を救えたのは確かに奇跡としか言いようが無い。ただ英雄とか天才なんてものは必ずしも良い事ばかりをもたらすとは限らない、そう思うのだ。どう関わるかによってそれは変わる。眼の前で苦しんでいるリンチを見るとそう思わざるを得ない。ヤンもラインハルトも一体何人の人間の人生を変えたのか……、そして俺は如何なのか……。

「帝国の辺境星域には苦しんでいる人、困っている人が大勢いるのです。その人達を助けて頂けませんか。同盟市民と帝国臣民の違いは有るかもしれませんが人を救う事が出来れば自分の生に生きる価値を見いだせるのではありませんか」

リンチがノロノロと顔を上げた。
「赦されると思いますか、私が」
「……分かりません。しかし受け入れられるのではないでしょうか」
「受け入れられる……」
「ええ、貴方が居たから今の自分達が有るのだと。それは生きて行くための糧になりませんか」

「受け入れられる……」
縋る様な目だった。目の前の初老の男は赦される事を望んでいる。しかし俺が赦すと言う事にどれほどの意味が有るだろう。リンチは誰よりも自分が赦せないのだ。自分自身が赦せない人間を他人が赦すことなど出来るわけがない。俺に出来るのはリンチに別な救いを示す事だ。

「私と一緒に辺境星域の人達を助けませんか。彼らに希望を与え、生きていて良かった、そう思えるようにしませんか」
「私にそれが出来ると……」
「ええ、出来ます」
「受け入れられる……」
老人の眼から涙が零れた。震えるような声で“有難うございます”とリンチが呟いた……。

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