ユクモ村にて自己紹介と……
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「こっち!?」
「はいニャ!」
「急ぎましょ〜」
森の中を走る。走り続ける二人と一匹。
手当ては傷を負ってすらいないのだから必要は無かった。必要だったのは武器の応急整備だ。
空腹でスタミナが切れ掛かっているが、携帯食料が無いので却下だ。ここで調理するか食料を調達している時間的余裕は無い。
ヴォルフは単独で救助へ向かった。自分達二人を救助した時に見た彼の剣は凄まじく、一人でも大丈夫だとは思ったが万一の事がある。
事が終った所で新手が出現するのはよくある事なのだ。特にこの渓流にはユクモの人々には馴染みの深い牙獣が生息している。騒ぎを聞きつけて現れるのは日常茶飯事だ。
今回だって火砲の音を聞きつけて現れるのではないかと心配していた位だった。
「あ、あれは……」
少女が、前方に人の後姿を見つけた。見覚えのある、両側頭部で結ばれた長い黒髪を。
「小冬ちゃん!」
女性が呼び掛けるも、呼ばれた少女―――小冬は聞こえていないのか振り返らない。
「小冬さん!」
共に走るアイルーのトラが先に彼女へと駆け寄って呼び掛け……ようとして、トラも小冬の見ている方向を凝視し始めた。
二人はお互いに顔を見合わせて、小冬とトラの元へと駆け寄り……その原因に目を奪われた。
アオアシラがいた。棘が並ぶ甲殻に覆われた前足の先にある爪の一撃は細い木など一撃で圧し折る程の威力と、意外なほどの速度を持っており、単調ではあっても体の大きさ故に間合いの中で躱すのは困難だ。
だが、対するヴォルフはその危険な間合いで掠りもせずに回避し続けている。その動きは風の中で舞う花弁のようだった。
連撃の後の振り上げを反転させて、両前足を用いた挟み込むような一撃は予測していたかのように後方へ下がって回避する。
距離を取ると共に、ヴォルフは地面に転がる石を蹴り上げて掴み取り軽く投げ付ける。石はアオアシラの鼻面へと吸い込まれるように当たるも、軽くバウンドして地面に落ちる。
あからさまな挑発だ。
最初、このアオアシラは負傷している小冬の方を見ていたが、すぐに立ちはだかるヴォルフに注意を向けた。そこでヴォルフは万一、矛先を負傷している小冬に向けられる可能性を警戒して同じように石を投げて挑発したのだ。
当然ながら石をぶつけられたアオアシラは怒ってヴォルフに襲い掛かった。その暴挙ともいえる行為に小冬は唖然としていたが、これで彼女に注意が向く事も無くなった。
そして今に至る。
二度も同じ暴挙を受けて黙っていられるアオアシラではなかった。後ろ足の二本で立ち上がり、両前足を広げて大きく吠える。
そこへ三度目の投石。全く力の篭っていない、明らかに馬鹿にした行為。
アオアシラは鋭い咆哮と共に突進しつつ、両前足を大きく持ち上げた。全力の一撃だ。人間など腐
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