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『彼』とあたしとあなたと

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う趣」



「落ち着け。嘩楠以外が男だったらおまえは男か?」



「は?んなワケないでしょ。ちゃんと胸あるしいらん脂肪もぷくぷくおナカについてるわよ」



「どれ?お、本当だ」



「ギャーーーーーーーーーーーーッ!」



 ガゴッと日紅の拳と犀の頬骨がぶつかって凄い音を立てた。



「ーーーーッ()ぅ…」



「何すんの!嫁入り前の女の子のお腹を触るなんてセクハラよセクハラ!訴えられても文句言えないレベルなんだからね!?」



「安心しろ。嫁の貰い手がなくなったら俺が貰ってやるから」



「そこまで落ちぶれちゃいないわようっ!」



「ま、おまえを貰おうなんていう男は一生出てくるわけないけどな」



「はい!?」



 日紅の眉がピンと上がった。



「犀!またそうい」



「俺が出てこさせやしないから」



「ー…は」



「日紅。おまえのそれってわざと?気づいているんだろ。なんでそんな知らない振りするの?」



「な、なにが…」



月夜(つくよ)を、好き?」



「え、そ、それは勿論好きだけど…」



「じゃあ、俺は?」



 犀が日紅を見ている。視線を痛いほど感じる。日紅が視線をずらす。興奮して近づきすぎた犀の影が、自分の膝にかかっているのが見える。



「な、なに言ってるの、犀。犀のいいたいこと、わからない」



「おまえが好きだ」



 無意識のうちに犀の膝にのせていた日紅の手を、そっと、犀の手が覆う。日紅は思わずびくっと体を震わせた。



 だめ!違う、だめ。自然にしなきゃ。だってこんなのなんともないでしょう。普通、そういつものことなんだから、動揺するな!



 重なった犀の手に、ゆっくりと力が加わる。それは振り払われるのを恐れるような、でも何か伝えたい感情があって、それが溢れてくるようなー…だめ、考えちゃダメ!



 はやく、へんじをしなきゃ。



 自分がなぜそう考えるのかわからないまま、日紅は笑った。唇は震えていた。



「あたしも好きよ」



「違う。はぐらかすな。顔上げろよ。俺を見て言え、日紅!」



 隠しきれない苛立ちを含ませて犀が言う。



 だめ。顔なんて上げられない。犀の目を見てはいけない。それを見てしまったら、何かが崩れる気がする。



「日紅!」



 日紅は唇を噛んだ。そして、ゆっくりと顔を上げる。思ったより近いところにある犀の顔。その目が、あった。



「好きだ」

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