第2章 真の貴族
第21話 ヴァルプルギスの夜
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彼が、何かを、彼女の耳元で囁く。
その仕草は、恋人同士の甘い囁きの如きそれで有った。
その行為が、まるで、俺自身の望みで有るかのように錯覚させるに相応しい自然な仕草、及び雰囲気で。
そして、その言葉を普段のルイズが俺に対しては、絶対に浮かべない種類の表情を浮かべて受け入れる。
その甘い言葉を耳元で囁かれる事が、彼女自身の望みでも有るかのように。
俺は、その娘を相手にそんな事はしない。まして、彼女の方も、俺をそんなに近くまでは近付けないはず。
これは夢。覚醒した状態で見せられている、悪夢。
そいつが、俺の方を見つめる。
何故か、その視線に大事な何かを奪われる。そんな気さえして来る……とても冷たい視線であった。
そして……。
そして、今度は俺の背後に少し視線を動かした。
その視線の先に存在するはずの蒼い少女と、俺の方に向けて、何事かを口の動きだけで告げるソイツ。
何を言ったのかも、何を告げようとしたのかも判らない。
但し、ヤツから発している雰囲気が、その声なき言葉を簡単に想像させる。
その一瞬の後、背中に良く知っている少女の気配を感じた。
それまで、そいつと、そして、彼女と俺以外の気配をまったく感じる事のなかった空間に新たな人物の登場を告げる気配を……。
刹那、急に回復する四肢の自由。
そして、近付く、そいつと彼女の距離。
それまで一歩も……いや、指先ひとつ動かす事が出来なかった事がウソのような軽快な動きで数歩の距離を走り抜け、左手で握りしめた鞘に納まったままの蜘蛛切りでその俺のドッベルゲンガーを討ち抜き、ルイズを右腕の中に確保する。
その瞬間、周囲の雰囲気が変わった。
先ず、光が、通常の光……魔法によって灯された、やや幻想的ながらも、この舞踏会が始まった当初から存在していた通常の空間を照らす普通の明かりに。
それまで聞こえていたはずの円舞曲が、まったく違う曲へと差し替えられていた。
そして、周囲の喧騒が戻り、無機質に踊る人形と化していた人物達が己の顔を取り戻す。
そして、その優雅に、そして中には、無様なステップを踏む者達の中心には……。
左手に蜘蛛切りを携え、右腕には、何故かその全体重を預けたルイズを抱えた俺の姿が残されているだけで有った。
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