第2章 真の貴族
第21話 ヴァルプルギスの夜
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標的にした犯罪は……。あまり上品、と言うか、人道的とは言えないような事が日常的に行われていた時代だったはずですか。
そうしたら、一応、その俺の偽物とルイズの姿の確認を……。
そう思い、ダンスホールの中心を確認する俺。
……居た。
あっけないほど簡単に、その視線の先にふたりは居ました。
確かに、そこには俺と良く似た背格好で、黒のタキシードの上下に身を包んだ黒髪の男性と、白いパーティドレスに身を包み、ボリュームのあるピンクの髪の毛を銀製のバレッタでまとめ上げた少女が踊っていました。
先ほどまでは、確かに才人とキュルケがその場を支配し、他に踊っている生徒達の真ん中に陣取って、キュルケの方は優雅に、それでいて、妙に情熱的な。片や、才人の方は、そんなキュルケに引っ張られるような形で、少し覚束ないながらも、それでも軽妙なステップでダンスをしていた空間に、今度は別のカップルがその場所。……このダンスパーティの主役が納まるべき空間を占めていた。
誰からの非難の視線を浴びる事なく、さもそれが当然の事のように……。
彼らの周囲には、まるで漣が起きているかのように世界が姿を変えている。彼が右足で軽やかにステップを踏めば、それに合わせて彼女が左足を優雅に動かす。
その様子は、彼らを中心に、世界自体が目まぐるしく変わっているかのようでもあった。
光が、音楽が、そして、互いの吐息が。
周りに存在する他の人物など、全ては夢の存在。自らのパートナーと、そして流れる円舞曲の旋律のみが現実の存在で有るかのようで有った。
周囲を取り囲む多くの顔の無い人形たちが無機質にワルツを舞い踊る中、たったふたりの現実が俺の正面で繰り広げられていた。
……って言うか、俺が、あんなに優雅に女性をエスコート出来る訳ないでしょうが。
それに、もうひとつ、俺に無い気をソイツは放っていた。
近寄るだけでも憚られるような、狂気を……。
ええい。何で、こんな妙なヤツが侵入していた事に気付かなかったんや、俺は!
そう自らの迂闊さに、尋常ではないレベルの後悔を抱きながらも、そのふたりの方に一歩踏み出そうとする俺。
しかし、時既に遅し。俺の身体は、まるで金縛りに有ったかのように動く事が出来ないように成って仕舞っていた。
そう、この空間自体が、既に悪夢の一場面で有るかのように。
まるで、楽しい夢から覚める事を拒む子供のように。
ソイツが、ルイズを見た。
彼女を一人の女性として見つめる眼差しで。
そう。其処には、ある種の賞賛と崇拝の色が含まれているかのような、そんな眼差しで。
毎朝、鏡を見る度に最初に出会うその瞳に、俺がルイズに対して絶対に向ける事のない色を浮かべて。
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