壱ノ巻
文の山
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何なのだこれは。
あたしは呆然と、目の前にあるそれを見た。
こんもりとてんこ盛りに土間にある、それ。いや、それら。
譬えるならば、かの雄大な富士がまるで雪化粧をしたかのようなーーー・・・。
って、流石に無理があるわ。
あたしは、頬をひくつかせながら、隣で困ったように眉を下げて苦笑いをしている兄上を見た。
「…ねぇ、兄上。これ、何」
「文のようだね」
さらりと兄上は答える。
「………」
「………」
ふたりして、それを見る。
文。確かに、文。
それにしても、この量は異常だ。
こんもりと、か〜な〜り〜ムリをして譬えるならば、雄大な雪化粧の富士のように積み上げられたそれは、膨大な量の、文の山。
「…ねぇ、兄上。あたしの気のせいかもしれないけど、宛名、瑠螺蔚って書いてない?」
「そのようだね」
これまたさらりと、兄上は答える。
「で、さぁ。これってあんまり考えたくないんだけど、もしかして…」
「求婚の恋文だね」
「な、何でこんなにたくさん、しかも一度にくるのよ!?そりゃぁ今迄だって来てたけど!でもこの時期タイミングで来るって事は、明らかに、前田家の瑠螺蔚が使える、って欲に目が眩んだ奴らばっかりじゃないのっっ!流石のあたしでも、そんな奴らとは結婚なんてしたくなーーーーーーいっ!」
あたしは足で文を蹴散らすと、どかどかと文を踏みつぶして(洒落じゃないわよ)土間に上がりこんだ。
「兄上、それ全部燃やして。父上に見せるまでもないわ。…あ、ううん。父上、もう見てるかも」
「瑠螺蔚?何処に行くんだい?」
「父上に会いにいってくる。バカなこと、考えないように釘刺してくるわ」
「おお、瑠螺蔚、何か用かな?実は今、おまえに会いに行こうとしていたところなのですぞ」
「え〜と・・・父上、あの文は見た?」
「ううむ。勿論見たとも」
チッ。やっぱり見たのか。
「見たが、のう。いやはや、全く惜しいことじゃ。もうすこぅし、早く文がきていればなぁ…。あの約束がなければ…」
ひとり言のようにぼそりと付け加えられた言葉をあたしは聞き逃さなかった。
「約束!?」
あたしは叫んだ。
「約束、って何
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