第二話 幼児期A
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けど、子どもだからこそできないこともやはり多いのだ。俺には成人した記憶があるからこそ、余計にそう思う。この世界に転生してから、そういったことに悩むことも何回かあったなー、そういえば。
「……私も大きくなれたら、お母さんのお手伝いができるようになるのかな?」
妹のその言葉に、俺は一瞬動揺した。そんな俺の様子に不思議そうに目を瞬かせる幼い少女に、俺は笑って誤魔化した。
なんてことはない。大好きな母親のために、娘として何かできないかと考えた純粋な思いからの言葉。そこにおかしなことは何もない。母親を心配すること、自分の未来を夢見ること。それは誰もが当たり前のように思って、当然のことなんだから。
******
「「あっ」」
ガチャリ、と玄関の扉が開く音がリビングまで響いた。俺と妹はすぐに反応し、お互いに顔を見合わせる。妹の顔は嬉しそうで、そしてどこか楽しんでいる雰囲気があった。そして、俺も似たような表情をしているのだろう。
リビングのソファから俺と妹は立ち上がり、テーブルの皿の上に乗せていた温泉卵を手に取った。妹にも1つ渡し、一直線に玄関へと向かう。
俺たち兄妹の中にはいくつか決め事がある。よく放浪してふらふらする俺たちだが、なにがあっても夕暮れ前には必ず帰ることにしていた。ただ一言、いつも仕事から帰ってくる母さんに「おかえり」と言うために。玄関に通じる廊下を抜けた先に、待ち望んでいた1人の女性の姿を俺たちは見つけた。
「おかえりなさい! お母さん!」
「おかえり、母さん」
「ふふ、2人ともありがとう。ただいま」
玄関まで迎えにきた俺たちの様子に、母さんは優しく微笑んだ。やはり職場は激務なのか、腰よりも長く伸びた艶やかな黒髪は傷み、顔には疲労の色と隈が見える。それでも俺達には笑顔を絶やさず、温かく迎え入れてくれる母親。俺と妹の大切な人。
「……ところで、その頭はどうしたのかしら?」
「えーと、撫でボ対決の被害?」
「そ、そう」
母さんが困惑している。俺たちの頭はところどころは直したが、未だに飛び跳ねていたりする。温泉に入った後だったから、余計に跳ねやすかったのだろう。
妹は母さんに見られたのが恥ずかしかったのか、せっせと自分の長い髪を指で真っ直ぐにしようとしている。卵で片手が塞がっているため、うまくできていないみたいだが。母さんはそれに気付いたのか、俺たちに不思議そうに問いかけてきた。
「あら、2人とも手に何を持っているの?」
「あっ、いけね」
「あっ」
慌てて手に持っていたものを隠すが、この際ここでもいいかな。妹に目線を送ると、それにうなずくことで同意を示してくれた。俺たちの行動に首をひねる母さんに、事前に打ち合わせをし
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