無印編
第二十二話 裏 中 (リンディ、武装隊、アルフ、リニス、プレシア)
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「―――おや、もう一人のお客様ですか」
アルフが完全に意識を失うまで見守っているつもりだったのだろう。だが、それはカツン、カツンと一定のリズムで刻まれる足音によって中断された。誰かが、上層からあの傀儡兵の群れを抜けてやってきたのだ。
援軍が嬉しいのは確かだ。だが、生半可な援軍が来たところでリニスに適うはずもない。
――― 一体、誰が来たんだ?
そう思って、少しだけ頭を動かすが、援軍の正体を知るよりも、アルフの気力が限界を迎えるほうが早かった。ただ、最後に見えたのは、黒い靴とスカートの端だったような気がした。
◇ ◇ ◇
リニスは、感情をなくしたにも関わらず、目の前の存在に恐怖を覚えていた。それはリニスが使い魔にされる前身だった山猫に残っていた本能だったのだろうか。それは、間違いなく目の前に存在に平伏しろと告げていた。だが、使い魔になったことで得た理性がそれをとどめていた。
「申し訳ありませんが、ここから先は立ち入り禁止となっております」
本能からくる恐怖を必死に押し込みながら、平坦な口調でリニスは目の前の存在―――黒いワンピース型の赤い文様が描かれたバリアジャケットに包まれた彼女にそれを告げた。
だが、彼女はそれを聞いていないような気がする。ただ、何かに耐えるようにギリギリと拳に力を入れていた。
もしかして、そこに転がっているアルフの仲間で、仲間がやられている怒りに震えているのだろうか? とリニスは思った。そうだとすれば、アルフを連れて引き返してくれればいいのだが、そう簡単にいくはずもなかった。
「もしも、アルフを「五月蝿い」
それは酷く低い声。聞いたものは一言で分かる。その声に内包されているのは、純粋な怒りだ。
「あなたは、ショウくんを傷つけた。私の大切な友達を傷つけた。だから―――」
ああ、彼の仲間だったのか、などと感心するような時間をリニスには与えられなかった。なぜなら、その言葉を言い終わる前に彼女の姿が不意に消えたからだ。いや、違う。彼女が消える直前に感じた魔力の揺らぎ。高速移動の魔法を使ったに違いない。そこまでは判断できた。だが、それ以上の判断を与える時間などなかった。
「壊す」
すぐ目の前に彼女が現れたと思った次に瞬間、腹部に衝撃が走った。
殴られたと気づいたのは、あまりの衝撃に身体を折ったあと、目の前に拳が迫っているのを確認した後だ。さりとて、腹部への痛みで怯んでいるところへの拳が避けられるはずもなく、リニスの顔面は、彼女の拳を受け入れ、あまりの衝撃に空を飛ぶように吹き飛んでしまう。そのまま、壁にぶつかるかと思ったが、叩きつけられるような衝撃はなく、代わりに身体中に何かが巻きつくような感覚。
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