無印編
第二十二話
[3/16]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
の意味を考えてみるが、僕が考えても意味がないことは容易に想像できた。なぜなら、その問いに答えるべき要素がまったく足りないからだ。だから、僕の妹があんなに取り乱した原因が知りたくて、気がつけば、僕はそのことを口にしていた。
「どうして、アリシアちゃんにあんな言葉を言ったんですか?」
返ってきた返事は、ヒュンという高速で空気を切る音とパシンッという皮を叩いたような音と熱と痛みを持った頬だった。返事が返ってくることは期待していなかったが、まさか、鞭が飛んでくるとは思ってもみなかった。いつの間に手にしたのか、プレシアさんの手には黒い鞭が握られており、先ほどまでは無表情だった顔には、憤怒の表情が浮かんでいた。
「……坊や、あれをアリシアと呼ぶなと言った筈よ」
その声は静かに、だが、確かに怒りを内包していた。だが、プレシアさんが僕に怒っているように僕だってプレシアさんには怒りを抱いているのだ。あんな風にアリシアちゃんを叫ばせた相手に好意をもてるか? といわれれば、答えは否だろう。
だから、僕は頬の痛みもあまり気にせず、睨みつけるようにして言い返した。
「お断りします。僕にとって、彼女はアリシアちゃんだ」
「違うわっ! あれは、アリシアじゃないっ! あれは、だたのゴミよっ!」
あんなに可愛い妹をゴミ呼ばわりされて怒らない兄がいるだろうか。僕は、おそらくこの世界で生まれて初めてというほどに彼女に怒りを抱いた。彼女も憤怒の表情で叫んでいるが、僕も負けじと叫んでいた。
「彼女がゴミなわけがないっ! 彼女はアリシアちゃんだっ!」
「違うっ!」
「アリシアちゃんだっ!」
まるで、子どもの喧嘩のように叫ぶ僕たち。構図だけを見れば、ガルルルルとお互いに吼える犬のようなのだが、内心はマグマのように煮えたぎっている怒りで翻弄されている。だが、あれだけ怒っていたプレシアさんが、不意に力を抜いて、にぃ、と不気味に笑った。
「そうね、あなたは本当のアリシアを知らないから、そう言えるのよね」
本当のアリシアちゃん?
そんな疑問を僕は抱いたが、それを飲み込んで考えるだけの時間を彼女を与えてはくれなかった。
彼女は、それだけを言うと、僕に背中を見せて、通路の奥に向かって歩き出した。僕について来いといっているのだろうか? と思ったが、そんな甘いものではなかった。
「うわっ!」
背中を見せたプレシアさんを尻目に、彼女の言葉の意味を考えようとしたのだが、急に首が引っ張られ、プレシアさんが歩いていった方向に倒れこむ。よくよく見てみれば、僕につけられた首輪からプレシアさんに向かって伸びる紐が確認できる。まるで、犬のリードのように僕は引きずられているわけだ。一体、彼女の細腕にどんな力がある
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ