無印編
第二十二話
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似たようなことを言う。
そう、正確に言うと、僕の妹という立場ではない。蔵元家の家族とでもいうべきだろう。
「アリシアちゃん」
「ん?」
「ありがとう」
だから、僕は、その感謝の意を精一杯こめて、彼女にありがとうと告げた。僕の言葉を聞いて、最初はきょとん、としていたアリシアちゃんだったが、やがて、笑顔のまま、うん、と精一杯頷いてくれた。もしかしたら、分かっていないのかもしれない。だが、それでもいいと思った。無理に理解する必要なんてないのだろうから。彼女が僕の妹である限り、これからも何度だってこの言葉を口にする機会はあるだろうから。
そして、それは、さて、と、と一息ついた瞬間を狙ったように起きた。突然の揺れ。また、次元震か? と思うのと同時にしがみついてくるアリシアちゃんの身体を護るように抱き寄せる。
その揺れは、僅か数秒のこと。落ち着いたところで、一体どうなってるんだ? と思ったが、医務室に情報が降りてくるはずもない。ただ、周りには所狭しとモニターがあることにはあるのだが。どれか一つでも映らないだろうか、と思っていると僕たちの傍にある一台のモニターが僕の願いを受け取ったように急に電源が入って、何かを映し出していた。
「なんだ? これは」
そこに浮かんでいたのは、まるで島のようなもの。それが、どこかの空間に浮かんでいた。
「あ……」
まるで、何かを思い出したように呟くアリシアちゃん。これは、何? と尋ねようとしたが、事態は、そう簡単にそんな時間を与えてくれなかった。僕がアリシアちゃんに問う前にモニターに変化が起きたからだ。まるで、島全体を下から上に槍で貫いたように走る一条の光。それを起因として、島全体がボロボロと壊れていく。その光景を食い入るように見つめるアリシアちゃん。
そして、彼女は、ポツリと一言だけうわ言のように漏らした。
「さようなら、母さん」
それは、アリシアちゃんのプレシアさんとの決別なのだろうか。ただ、アリシアちゃんが呟きながら僅かに流した涙が、すべてを物語っているような気がした。だから、僕は何も言わず、彼女を抱き寄せた。君は一人ではない、と伝えるために。君の居場所は、ここにもある、ということを伝えたくて。
僕の伝えたいことが伝わったのか分からないけど、アリシアちゃんは、僕に抱き寄せられて少し驚いたような表情をしていたが、すぐに今まで見せてくれた笑顔の中で一番輝いている笑みを見せてくれるのだった。
◇ ◇ ◇
その日、海鳴の海岸には数多くの人間が集まっていた。誰も彼もが、鉄板で焼かれた肉や野菜を手にとって談笑している。中には地球産のビールは、ミッドチルダと違う、と言いながら何本も飲んでいる兵が居た。
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