萌芽時代・出逢い編<中編>
[5/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
した。いや、もうマジで。
この場合、この店主のお姉さんが言っている「あの子」とは、ここにいない黒髪少年(兄)の事だろう。何故だ、あの邂逅のどこに気にかけるところがあったんだ……!
無言で両腕を擦っている私を見て何を思ったのか、番台の上に座っていたお姉さんが優雅に衣擦れの音を立てながら、こちらへと近寄ってくる。
――そうして、にこりと猫の様な微笑みを浮かべた。
「まあまあ、折角の機会だ。うちの店で何か買っていかないかい? 日用品から武具・防具に至るまで、この店には色々揃ってるからね」
ええー。折角のお誘いだけど、いつあの黒髪少年(兄)が弟君を迎えにくるか分からないし、ここは素直に帰っておいた方が良さそうだしなぁ……。
「あ。兄さんなら暫く戻って来ないと思います」
にこにこしながらの弟君の言葉。
なんだろうこの子、エスパーだろうか。
「なら……。女の子に贈り物をしたいんだ。何か良い物はあるか?」
「おや。千手の次期頭領も隅に置けないね」
くすくすと笑いながら、お姉さんが奥に引っ込んでいく。おそらく品物を取りにいくのだろう。
……にしても、また自分は男の子に間違われたのか。
慣れたけどさぁ……、なんか虚しいよね。
「そうだ。これ、あの時の手巾のお礼です。受け取って下さいますか?」
「え?」
そんな事をつらつらと考えていたら、弟君がポケットから取り出した手巾を私の方へと差し出してくる。
わざわざ用意してくれていたのか、律儀な事だ。
そう思いながら取り出された手巾を見ると、その色は薄桃色。――綺麗だけど、どうみても女物だ。
「少年、気持ちは嬉しいんだが……この色はちょっと……」
「どうしてですか? お似合いだと思いますが」
しゅん、と眉根を下げる弟君。まるで捨てられた子犬の様である。
まじまじと彼の手の中にある薄桃色の手巾を見つめる。うん、どこからどうみても女物である。
ううむ……、少年の心が解せない。
「わかった。大切に使わせてもらうとするよ」
「いいえ。むしろばんばん使ってやって下さい」
――あなたみたいに綺麗な女の人に使ってもらえたら、オレも嬉しいです。
微笑みながら付け加えられた一言に、思わず目を剥いた。
今、この子なんて言った……?
「あの、今なんて……?」
「え? 何がですか?」
きょとん、と首を傾げてみせた弟君。
物凄く聞き捨てならない言葉が聞こえた様な気がしたのだが、気のせい、だよな……?
「さて、千手の若。ご要望にお応えして色々と持って来たけれども……おや、どうしたんだい?」
桐の箱を手に、奥から戻って来た店主のお姉さん。
その足下には、先程この店にまで自分を案内して
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ