第六話 さらば第二の故郷
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
す。それから数十分かけて海岸線にたどり着いた。そこは崖のように急斜面になっており真下には広大な海が広がっている。
そうここが俺の目的地であり出発地点だ。月に一度だけこの真下の海にとある生物が通過する。俺はそれに乗ってこの島から脱出しようと思っている。
「そろそろ来るはずなんだが……っと、来たな」
俺は改めてこの島を見る。残念ながら全貌は見えないがお世話になったこの島に感謝を込めて深くお辞儀をする。
「お世話になりました。この島のおかげで随分と成長でき、目標もできました。では行ってきます」
そのまま俺は崖から跳躍して海へと飛び降りた。
大きな水しぶきを上げ、冷たい海水が俺を出迎えた……わけではない。それは暖かい温水の中。そう、俺はとある生物の背中にいる。
「よろしく頼むぜ――温泉鮫さんよ」
捕獲レベル20。体長は二十五メートル程。背中の凹んでいる部分のしぶき穴からお湯を吹き出す不思議な鮫の背中はまるで湯船の中だ。いや、海を渡ってるから本当に湯船だよなこいつ。
魚獣類にしては比較的大人しい部類の奴だが、背中にいきなり飛び降りられて温厚でいられるわけではない。しかし俺は以前こいつを初めて見たときビリッと来た。その時こいつから活路を見出し、あらかじめどちらが上位の存在かを威嚇によって認識させていた。ゆえに今俺が大胆に飛び込んでも大人しいままだ。
とりあえず愚神礼賛(シームレスバイアス)を変形させて巨大なカマクラのような物を作り上げそれを温泉鮫の尻尾と繋いだ。相変わらずこの愚神礼賛は武器以外の物には変形が若干遅い。躾をしたほうがいいのだろうか。
そのカマクラの中に取り敢えず荷物と今着ている衣服を放り込んで温泉に浸かる。
「はぁ〜生き返る。極楽極楽」
日本人の俺があの島にいて辛かったことは湯船に入れなかったことと米がなかったことだ。と言っても湯船に関しては何とか自作で作り上げ、薬草で身体を洗えたのでよかったが、米がどこを探してもないのが本当に辛かった。町に着いたら一番に米の料理を食ってやる。
「お金持ってないけど、その辺にいる奴を捕まえれば何とかなるだろ……この独り言も直さないとな」
あの無人島にずっと一人で居たせいで独り言がクセになっている。町中でやったら白い目で見られそうだ。ただクセなので簡単には治りそうもないが。そう思うとあの無人島は本当にいろいろと良くも悪くも俺に多くの影響を与えてくれやがったな。そう思い島の全貌をもう一度だけ眺めようと振り返ると
「えっ?――な、ない。無人島が消えた……」
そこにあるはずの無人島は姿を消していた。何故、どうして。まるで故郷を奪われたようなそんな感覚に焦りつつも、どこか心の隅であぁやっぱりと納得していた自分がいた
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ